第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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~8年前・ジャッキー40才誕生日の夜~ 壊れたドアから屋上に出た時、思わずため息がもれたよ。 雲一つない満天の星空。 廃ビルは3階建で、たいして高くはなかったのに、なぜか星が近くに感じてね。 何年もまともに空を見てこなかったから、そう思えたのかもしれない。 毎日パソコンばかり眺めていたせいで、慢性的な頭痛でさ。 日に3回は鎮痛剤を飲んでいたのに、この時ばかりは痛みも吹っ飛んでしまったよ。 「キレイだなぁ、」 買った酒の最後の一本を飲み干して、そのまま寝転んで星を見てたの。 そしたらね、しばらくして、どこからともなく小さな声が聞こえてきたんだ。 ____ジャッキー……ジャッキー…… ……? 誰だ……? 空耳か……? ____ジャッキー……ここだ……俺達はここにいる…… 空耳じゃあ……なさそうだな……誰だ……? 自分を“ジャッキー”と呼ぶのは、スタント時代の仲間しかいないはずなのに。 ____ジャッ……ジャッキ……ジャッキー…… ____ジャッキー! だんだんとはっきり声が聞こえてきた。 間違いない……誰かが自分を呼んでいる。 どこだ……どこからだ……? 屋上じゃない、もう少し距離があるようだが…… ____ジャッキー、ここだ! 下だ! 下? このビルの下から呼んでいるのか? 声の主は複数いるようだが、こんな夜中に正体がわからない。 もしかして……自分が部屋にいない事が家族にばれたんじゃないか? 警察にでも連絡して、自分を探しに来てくれた人達が下に集まっているのでは……って、いや、もしそうなら“志村さん”と苗字で呼ぶだろう。 自分が“ジャッキー”と呼ばれていた事を家族は知らないはずだ。 ____ジャッキー! なにをしている! 撮影時間は押してるんだぞ! ……!! ____安心しろ! 必ずオマエを受け止めてやるっ! ____この仕事は人を疑ったらオシマイだっ! ____俺達スタッフを信じろっ! 一瞬にして鳥肌が立った。 正体不明の声が怖いからとか、そんな理由からじゃあない。 あまりにも懐かしすぎたんだ。 この言葉、今でもはっきりと覚えてる。 そうだ、忘れるはずがない。 自分がスタントマンとして初めて現場に立った時、こんな廃ビルの屋上から飛び降りるシーンだった。 新人の初現場。 回るカメラに、たくさんのギャラリー。 緊張は臨界点を振り切っていた。 足がすくんで冷や汗掻いて、なかなか飛ぶ事ができない自分に、下で待ち構えるスタッフ達が檄を飛ばしてくれたんだ。 ____ジャッキー! 安心しろ! 絶対に死なせはしない! と。
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