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当時のスタッフ達がこんな所にいるはずがない。
だけど確かに聞こえてくるんだ。
____ジャッキー! ここまで来いっ!
決して急かす言い方じゃない。
力強くて、安心感を与えてくれて、飛べるって思わせてくれるんだ。
スタントはね、どんなにスタントマンに度胸があっても、それを支えてくれるスタッフがいなかったら成立しない仕事なんだ。
だけど、そのスタッフ達がなぜここに……?
____ジャッキー! ジャッキー!
呼ばれるまま、腐食したフェンスから顔を出して下を覗いみたら……驚いたよ。
だってそこには、送風式救助マットをセットしたスタッフ達が、何人も見上げて手を振っているんだもの。
「嘘だろ……?」
自分は目を疑ったね。
でもそこにいたんだ。
____ジャッキー! 待ってたぞ!
____さぁ、魅せてくれ! オマエのスタントは誰よりも美しい!
スタッフ達の目は輝いていた。
自分が飛ぶのを今か今かと待っている。
ああ……ああ……ああ……!
そんな目で見ないでくれ……!
期待してくれてるのに、すまない……!
自分はもう飛べないんだよ……!
足が……足が無いんだ……!
義足なんだ……!
昔みたいに動けないんだ……!
足を失ってからこっそり一人で泣いたけど、あの夜程泣いた日はなかったよ。
自分を信じてくれるスタッフ達が、下で待っているのに、期待に応えられないのが情けなくて、申し訳なくてね。
それで……改めて痛感したんだ。
自分はやっぱりスタントの仕事が大好きだったんだって、ずっと続けたかったんだって。
あの事故さえなければ……!
あの時、アイツが爆薬の量を間違わなければ……!
なんで足なんだ……!
なんで切断なんだ……!
なんで義足はこんなに重いんだ……!
なんで……! なんで……! なんで……?
なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ……?
なんでこんな思いをしなくちゃならないんだ……?
他のヤツでも良かったじゃないか……、
……
…………
………………なんで自分なんだよ。
ははは、本当に人は弱いよ。
この時ね、ずっと考えないようにしていた醜い思考が脳裏をよぎってしまったんだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!!!」
他のヤツでも良かった……だと?
なんて事を考えるんだ……!
自分が恥ずかしい……!
あれは仕方のない事故だったんだ。
爆薬の量を間違えたスタッフだって、普段はとても慎重でミスなんてした事はなかった。
たまたまだったんだ。
人間のする事に完璧はない、どんなに確認しても間違える可能性はゼロじゃない。
わかってる!
わかってるんだ!
だけど悔しいんだ!
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