第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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涙と鼻水でグチャグチャになりながら頭を抱えていると、下から昇る空気に粘度が加わった気がしたんだ。 それと同時にスタッフ達の口調も変わってね。 ____そうだよな悔しいよなぁ、オマエはなにも悪くないよ、 ____悪いのは、爆薬の量を間違えたあの男だ、 ____あの男、いまだ毎日オマエに会いにくるけど上っ面だけ、 ____帰ったらケロッと忘れて笑ってるんだぜ、 ____辛いよなぁ、腹立つよなぁ、呪いたいよなぁ、 ____ジャッキー! ジャッキー! ジャッキー! ____心を偽るな! 素直になれ! 許せないんだろう? 憎いんだろう? 下を覗けば、スタッフ達がニヤニヤと笑ってる。 ブォーブォーと音を立てる送風式救助マットがはちきれんばかりに膨らんで、 ____ジャッキー、ここまで来いよ、 ____マット目掛けて飛ぶんだ、 ____義足だって構うもんか、受け止めてやるよ、 口の両端が耳にまで届きそうに広がって、両手でもって手招きをする彼らを、この時、初めて恐いと思ったんだ。 「と、飛ばない……自分は飛ばない……」 ____飛ばないだぁ? ____意気地なしかよ、撮影押してるぜ? 迷惑かけんな、 ____そうだ迷惑なんだよ、オマエの家族は肩身が狭いだろうなぁ、 ____部屋に閉じこもって、金も稼がない穀潰しの息子、 ____食うコトとクソするコトだけはいっちょ前ってか? ____ぎゃはははははは! 明らかに馬鹿にするように煽り始め、 ____ジャッキー、ビビッて飛べませーん、 ____見ろよ、ガタガタ震えてるぜ? ____元スタントマンが聞いて呆れるな、 ____じゃあ、手伝ってやろう、 ____ああ、そうだな、 ____こちら側(・・・・)に引きずり込んでやる、 スタッフ達は総出で騒ぎ始めたんだ。 彼らは……うん、そうだよ、エイミーさんの言う通り、彼らは生者じゃなかった。 恨み辛みでこの世に縛られた地縛霊だったんだよ。 地を蹴った地縛霊達は、一瞬で屋上まで飛んできた。 「…………ッ!」 悲鳴すら出なかった。 霊達は自分の身体にしがみつき、 ____堕ちろ、 と、自分と一緒に落ちていったんだ。
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