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自分は8月生まれでね。
夏の太陽は、植物や木々をこれでもかと育て上げ、廃ビルのまわりをぐるりと囲む、大木の数々も例にもれず、もっさりと豊かな枝葉を伸ばしていたんだ。
気を失っていた自分が再び目を覚ました時、空に星はなく、地縛霊達もいなくなっていた。
一緒に落ちたはずなのにと、見ればそこは木の上だった。
送風式救助マットに比べれば、数段、寝心地は劣るけど、それでも枝葉は自分を地面には落とさずに受け止めてくれたんだ。
スタントマンを離れて数年経つのに、染み付いた習慣は相変わらずで、すぐに身体に負傷箇所がないか確認した。
奇跡的に大きな怪我は無いようで、義足も外れていない、ホッとしたよ。
屋上と地面の間。
さて、どうやって降りようか。
自分の足が健在であれば、この程度の高さ、猫科動物のように音もなく飛び降りる事ができただろう。
だが今は義足だ。
着地の衝撃で接合部分を傷めるかもしれないし、最悪外れてしまうかもしれない。
外れたところでまた取り付ければいいのだが……無駄に痛い思いをするのはごめんだ。
星も月もない夜空、明かりと言えばここから遠くに見える街灯だけ。
夜目が効くはずもなく、安全に降りるには、へっぴり腰で秒速5cmくらいの慎重さが必要そうだ。
とその時。
遥かかなた天高く、金色に輝く何かが自分に迫ってくるのが見えた。
なんだあれは。
そう思う間もないくらいあっという間だった。
金色に輝く何かは、一本の道となり自分の足元までやってきた。
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