第六章 霊媒師OJT-2

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◆ ~田所貴子の過去~ 私ね18才の頃。 高校卒業と同時にN県の田舎から東京(こっち)に出てきたんです。 田んぼと畑に囲まれた何もない田舎の町で育った私は、このままこんな田舎で一生を終わらせるなんて嫌だ、高校を卒業したら東京に行こう、きっと父は反対するけどかまうものかってずっと思っていました。 特にやりたい事も、目標も、夢も、ありませんでした。 ただ、ただ、田舎が嫌で、東京に憧れて、東京にさえ行けば後はなんとかなるって、楽しい事がたくさん待っているって……恥ずかしい話ですが、本気でそう思っていました。 今思えば浅はかですよね。 親元から離れて1人で暮らす。 その為にお金がいくら必要なのかもわからないのに、料理もまともに作れないのに、東京に知り合いの1人もいないくせに、そういった事には目を背けてなんでも1人で出来る気になっていました。 本当はずっと父と母に守られていたのにね。 毎日おいしいごはんが食べられて、借金取りに追われる事もなく、暖かい布団で安心して眠れて……そんな幸せな日常があたりまえに繰り返されていた私は、それが働き者の父の努力と365日休むことなく家事をしてくれる母の優しさによって成り立っている事にまったく気が付けなかったんです。 親なんだから当然、まではいかなくても……ああ、違う。 岡村さん、私を笑ってやってください。 あの頃の私は本当は心の奥底で……どこか当然だと思ってたのかもしれません。
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