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「キュゥン? 動物? 猫はニャー、犬はワン、キュゥンは……キュゥンは……んーわかんないなぁ。こないだクリアしたゲームに語尾が“きゅん”の美少女がいたけど……あはは、さすがに違うよねぇ、」
波打つあったかマットの上でヨイショと体勢を整えると、途端、不安定に揺れた。
「うわ、うわうわ、ちょっと、なにこれ、うわぁん!」
ぽんよぽんよと、立っても座ってもいられない揺れに、マットからポイっと放り出されてしまった。
が、しかし、
腐っても元スタントマン。
マットから地上まで結構な高さがあったものの、宙に浮いたと同時にオートで身体が反応し、前方2回ひねりで着地に成功。
クルクルッ……シュタッ!
「ヤバッ! 考え無しだった! 義足! 大丈夫かな!?」
自分の義足は一般生活用で、スポーツ用じゃあない。
日常生活には対応していても、飛んだり跳ねたり落下したりは非対応だ。
慌てて義足を確認したが、まったくもってなんともない。
それどころか、着地の衝撃が加わったにも関わらず、接合部分に痛みもない。
光る道といい、この星といい、どうやら身体の不調や痛みを消し去ってくれる、得体の知れない力が働いているようだ。
「ま、リカバーロードだろうが、リカバーゾーンだろうが、夢の中だろうが、身体の痛みがなくなるってのは、オジサンにとってありがたい話だけどね、」
誰に言うでもなく独り言を呟いた時だった。
まるで自分に返事をしてくれたかのようなタイミングで、「キュンッ!」とカワイイ鳴き声が再び聞こえた。
すると。
雲一つない青空の下、頭上に影が落ちてきた。
ただならぬ気配にガバッと振り向くと、ハッハッハッと短く息を吐く大きな口が、すぐ目の前にあったんだ。
食われる!
強烈な危機感から、後方に跳躍しようとしたけれど、「キュゥン!」と無邪気に鳴く巨大生物の手にあっさりと捕まった。
どれくらい巨大かというと……小ぶりな山くらいはあったね。
あ、わかりにくい?
じゃあ、二階建ての一軒家程の大きさだと言えばイメージ沸くかな?
そのくらい巨大な……パンダちゃんだったんだ。
そのパンダちゃんは、器用に自分を掴んだままグルングルンと、匂いを嗅いだり、ジロジロ見たりと大忙しだった。
新しいオモチャがどんなモノなのか興味津々といった雰囲気で、ゴハンとして自分を見ている感じではない。
それに途中で気付いたんだ。
自分を受け止めてくれた送風式救助マットもどきの正体は、このパンダちゃんの腹だったって事を。
恩人ならぬ恩パンダだ、好きなようにさせてやれと、されるがままに身をまかせた……って、どっちにしても、ガッチリ掴まれて逃げ出せなかったんだけどね。
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