2366人が本棚に入れています
本棚に追加
「オイ、オマエ! 鼻血が止まらないじゃないか! これを使え!」
差し出されたのはキレイな白いハンカチで、それで血を拭えと言われたが、とてもじゃないけど使えなかった。
心配半分、呆れ半分といった表情のその人は、二十代前半くらいの若い女性でね。
正直……息が止まるかと思ったよ。
彼女はあまりに美しかった。
その容姿は芸術作品のようなのに、話し方はすこぶるガサツ。
いきなり鼻血を出した怪しいオジサンに、迷う事なくハンカチを出す優しい子。
パーフェクトなギャップ萌えに、思わず拝みそうになる程だった。
自分は元スタントマンだからね、撮影現場にいた、世間で美人と言われる女優もアイドルもたくさん見てきた。
彼女達も十分美しかったがその比ではなく、まさに女神としか言いようがなかったよ。
「落ちた時にどこかぶつけたのか?」
自分を覗き込む女神の髪が揺めき輝いているのだが……コレどうなっているんだ?
その髪は、近くで見ると宇宙そのものに見えた。
黒髪という夜空には、ダイヤモンドを散らしたような、小さな無数の星達が眩い光を放っていてね。
女神が動くたびサラサラと髪が揺れ、それに連動して星の位置も変わる。
触れてみたい……という衝動をなんとか抑え、彼女の質問に答えたんだ。
「いえ、大丈夫です。どこもぶつけていませんよ。自分は元スタントマンですから、あれくらいの落下はなんの問題もありません。問題があるとすれば……くっ! ちょっと失礼!」
自分は何年も着古したTシャツを慌てて脱いで、失礼を承知で女神に差し出した。
「あの! Tシャツを着てもらえませんか? 汗臭くて申し訳ないのですが、どうかお願いです、なぜって……! あぅ……その……つまり……アナタが! アナタが美しいからです……自分、目のやり場が、」
本当にねぇ。
あの格好はオジサンには刺激が強すぎた。
そりゃあ鼻血も出るよ。
だってさ、身体を覆う布の量が圧倒的に少なかったんだもの。
最初のコメントを投稿しよう!