第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「目のやり場? なに言ってんダ? アンタいい大人じゃないか。これくらいで照れるなよ。かえって恥ずかしくなるわ」 細い腰に手をやって、呆れたように笑う女神は、ピッタリとしたデニムのショートパンツに、上は黒のチューブトップだけ。 解せぬ……なぜにそんな格好なんだ? 春の陽気にアンマッチすぎる夏仕様。 自分基準じゃ、それもう半裸ですから。 目のやり場に困りますから。 「いや、その、大人ですが、大人ですけど、大人だけど自分は男だし……と、とにかく早く着てちょうだい!」 ポカンと自分を見ていた彼女は、すぐにプッと噴き出して、 「ヤダ、着ない。だって本当に汗臭そうなんだもん。だけどアンタ真面目だな。ウチのこの格好を見て、そんな反応をした男は初めてだ。だいたいは見てないふりしてガッツリ見てるんだけどナ。まぁ、いいや。アンタが嫌がるなら着替えるよ」 と、頭上にあげた指先をパチンとひとつ鳴らしたの。 あっと思ったね。 瞬きした次の瞬間には、布の量が増えていた。 黒のチューブトップから、ふんわりとした白のミニ丈ワンピースに変わったんだ。 「え!? なに今の! 早着替えにしても早すぎない!? もしかして蒸着!? 0.05秒!?」 昔、特撮ヒーローモノの撮影で、アクション指導をした時にね。 作品の中の主人公は、僅か0.05秒という光速でヒーローに変身するんだ……想像できるかい? 1秒の1/20(20分の1)でしかないコンマ05秒の枠の中、コックピットから転送されたヒーロースーツを、湧き上がる正義のパッションで発熱した主人公の身体に蒸着させて一体化するんだ。 ジャンプして着地したら、変身完了ってくらいの早さでね。 ちょっ、ふーんって、これはスゴイコトなんだよ? なんせ歴代の特撮シリーズにおける永遠の疑問、【敵はなぜ変身中に攻撃しないのか!?】に終止符を打った神設定なんだから。 まさかその神設定を目の前で見せられるとは思ってもみなかった。 女神は言った。 「惜しい、ウチの衣装チェンジは0.02秒だ」 ガァッフ! さらに0.03秒削ってきたーーーーー!! 「嘘だろ!? まさか本当に蒸着なのか? あまりの速さに冗談で言っただけなのに! 仕掛けは? 一体どうやってるんだ?」 「どうやってって言われても。詳しい事は開発者に聞いてくれ。“ジョウチャク”かどうかは知らないが、ココの住人はみんなこうして着替えてるんだ」 ネタバレ求むもアッサリ知らんと答えた女神は、熱心にパチンパチンと指を鳴らし、そのたび装飾品が増えていった。
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