第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆ 宇宙色の長い髪が風に揺れていた。 艶めく漆黒に煌めく星々。 時折、髪から星が流れて宙に消える。 そのたび、パンダちゃんがモフモフの両手を合わせているのだが、流れ星にお願い事でもしてるのだろうか。 「さあて、ここらでお互い、自己紹介でもしときますか。まあ、座れ」 草の上にドカッと座る女神は、少し離れた目の前を指さして、自分にも座るよう勧めてくれた。 いそいそと女神の隣を陣取るパンダちゃんは、キュゥキュゥと鼻を鳴らしてゴキゲンだった。 「まずはご挨拶だ。はじめまして、だな! ウチ、アンタのコトは知ってるぞ。志村貞治、通称ジャッキー、元スタントマンだ。撮影中の事故により両足を切断したのを機に引退。手術後は自宅療養。色々あって早めの義足導入後、日常生活はなんとか送れるようになったが、再就職に失敗し本格的な転落人生が始まった。家族とギクシャクし、引きこもる事数年。最期は夜中の散歩中、酒に酔って廃ビルの屋上から転落死の享年40才、だろ?」 なんだ……? 今の話はなんなんだ……? 初めて会ったはずなのに、女神もはじめましてと言っていたのに、なんでそこまで知っているんだ? それになにより……最後なんて言った? “享年40才”って言わなかったか……? 「ん? 不満そうな顔だな。どっか間違ってたか?」 上半身をヒョイとかがめ、からかうように自分を覗き込む女神。 甘い匂いがくすぐったい。 「……いや、9割は正解だよ、」 「9割? おかしいな、残りの1割は違っていたと? だとすればテクニカルに連絡しないとな。プライバシーなぞクソくらえレベルの情報収集力を豪語してたのに。ま、無敗のシステムにバグが出たら一杯おごってもらえる約束だから、ウチは良いんだけどさ。で、どこが間違ってた?」 ケラケラ笑う女神だったが、隣のパンダちゃん同様、目が全然笑っていない。 背中に冷たい汗が流れた。 自分は死んでなどいない。 現にこうして生きているではないか。 「いや、もしかして聞き間違いかな……? “転落死”とか“享年40才”とか言っていた気がしてさ。あぁ、あとは全部合ってるよ。なんでそんなに細かい事まで知ってるんだい? オジサンびっくりしちゃった。あははは、はは、ははは」 明るく笑ったつもりだったのに、1人と1頭に凝視されて口の中はカラカラだ。 自分は死んでない……はずだ。 たとえ廃ビルから落ちたとしても、謎の光る道を駆けたとしても、宇宙で呼吸ができたとしても、知らない惑星に着いたとしても、だ。 頭の片隅に、疑問に見せかけた裏付けが数々沸き上がる。 説明のつかない現象に、あえて気が付かない振りをしてきた……が、女神の次の言葉で認めざるを得なくなった。 「そこ? なんだ、間違ってないじゃないか。あーあ、タダ酒飲み損ねたわ」 なんてこったい……自分、死んだのか。
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