第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「しかし他殺とは災難だったな。しかも犯人が地縛霊じゃあ、真相は闇の中。表向きは“高齢ニートが酒に酔って転落死”扱いだ。家族に誤解されたままってのは辛いよな……」 宙に浮かぶDOS画面に女神が2度触れると、パチンと弾けて消えてしまった。 何もない宙を見つめたままの女神は、小さな声で「そんなの悔しいよ」と唇を噛んでいる。 他人(ひと)のコトなのに、怒ってくれるのがありがたくて、なんとか元気付けたくて、自分は努めて明るくこう言ったんだ。 「大丈夫、気にしないでくれ。家族は誤解してるだろうけど、地縛霊とはいえ他殺と知ったら、かえって傷付けてしまう。酔っぱらって不注意で死んだコトにしといた方がいいと思うんだ。 それより、さっきのはなに? 自分の経歴がズラーって書いてあった黒い画面! アレ見たの女神だけ? 他の人も見たの? すっごい恥ずかしいんだけど!」 大げさに頭を抱えてチラリと見れば、歯を見せて大笑い。 うわぁ、若い子ってこれだけ笑っても顔がクシャクシャにならないんだな。 「あははははは! 悪い! だがアレを見る権限があるのは、何か特別な事でも無い限り光る道の担当者だけだ。他のヤツは見れないよ。とは言っても担当者は死ぬほどいるけどな!」 ポンポンと自分の肩を叩き、オッサンのように笑う女神が眩しかった。 「本当はさ、」と女神は続きを話し始めた。 「死者が光る道を渡って黄泉の国(ココ)に到着するのに、平均48時間はかかるんだ。最初は戸惑いながら歩を進め、慣れてきたら途中の宇宙空間を楽しみ、観光気分でゆっくりのんびり来るんだよ、普通はな。道中を楽しめば楽しむ程、現世への未練も薄くなる。ウチら光る道の担当者は、その間に死者の生前の経歴書に目を通し、3度くらい読み返したところでようやく死者が入国し迎えに行くパターンなんだが……」 口を尖らせ不満全開な表情で、ビシッと自分に指先を向ける女神は、あからさまに文句を言ってきた。 「ジャッキー、オマエ光る道をほぼ休みなく走ってきただろう! 出発から到着まで5時間22分! ったく、歴代最短記録だ! そんなに早く到着するヤツがいるとは誰も思わんよ! そういう訳で最後の数行を見逃した。ウチは悪くないからな、ふん!」 ムキになって言い訳をする女神。 髪に煌めくダイヤモンドの星々が、ルビー色へと変化して、頬にも赤みがさしている。 表情がコロコロ変わり、見ていて飽きない。 それに……なんだか最初に持った印象よりも幼く感じるな。
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