第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆◆ 風がやんだ。 舞っていた花びらは、ふわりふわりと集まって、天に架かる虹へと姿を変えた。 その下で、バラカスは丸い手を器用にもパチンと鳴らし、大量の笹を出現させてはモシャモシャと食べている。 それを見ていた自分と目が合うと、手にする笹を「キュエ」と言って差し出した。 これは訳してもらわなくても分かる、「食え」と言ったんだ。 黒い楕円の縁取りの奥、バラカスはニヤニヤしながら自分をジッと見つめている。 まるで「俺の酒が飲めないのか?」ならぬ「俺の笹が食えないのか?」のプレッシャー。 横で女神が「バラカス、ジャッキーには食べられないよ」と助け船を出してくれたのだが、この巨大パンダは引こうとはしない。 どうやっても笹を自分に食べさせたいようだが、これは好意なのか? あの悪そうな二ヤついた目を見ると、どうもマイルドな嫌がらせなんじゃないかと勘繰ってしまう。 だがな、 「なぁバラカス。自分は若い頃、カンフーの修行で中国に行ってたんだよ。当時金が無くてな、向こうではなんでも食べたもんさ。いわゆるゲテモノと呼ばれるモノもね。笹かぁ……懐かしい、フレッシュサラダだ。ありがとう、いただくよ」 バラカスから笹を受け取ると、葉の部分を手早くむしり取った。 さすがにパンダのように、横にした笹を口に噛み、一気に引いて葉を分離させる食べ方は難易度が高すぎる(口角とか切っちゃいそうだし)。 笹一本からとれる笹の葉は山盛りとなり、それを手で掴むと、口の中に押し込んで咀嚼した。 「この味、懐しっ!(モシャモシャ)だけどこれ(モシャモシャ)、中国で食べたヤツより瑞々しい! うまっ!」 あっという間に食べ終わってしまった。 この笹が呼び水となり、なんだか急に腹が減ってきた。 というか死んでも腹は減るんだな。 うわぁ……という目を向ける女神とは対照的に、バラカスはなにやら嬉しそうに「キュウキュウ」と鳴いている。 まぁ、なんだ。 「俺の酒(笹)が飲めないのか!」って絡むヤツは、飲みさえすれば上機嫌になると相場が決まっているからな。 お気に召したのだろう。 「おーい、バラカス、ジャッキー。仲良く笹食べてるトコ悪いんだけどな。そろそろ入国手続きしに行くぞー」 「入国手続き?」 「ああ、そうだ。黄泉の国の住人になるには手続きがいるんだよ。手続きが終われば、この国で暮らすための簡単な説明がある。ココは多星籍だからさ、いろんな星の死者がいっぱいだろ? なるべくトラブルにならないようにしないとだし、衣食住の方法やら、生活する為に必要なコトだ」 「そうか、なんだか難しそうだな」 「んなコトはない、慣れれば簡単だ。それにココにいる死者達は穏やかな善人ばかりで、そうそうトラブルにはならないよ。徹底してるんだ、悪人は入国すらできない。なんたって、そういうヤツは地獄に流されるからな」 軽い調子で出た“地獄”という言葉。 少しだけ背筋が寒くなる。 「地獄っていうと……針山とか、火の釜とかかい?」 恐る恐る女神にそう尋ねると、 「ジャッキーには関係のない場所さ。ただ、針山や火の釜の方がぜんぜんマシだろうな」 とだけ答え、それ以上は教えてはくれなかった。
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