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◆
ここは新宿か?
いや、それ以上だ。
街はたくさんの死者達で賑わい、ごった返していた。
「め……女神……! バラカス……! 絶対に自分を置いていかないでね……!」
自分は完全なおのぼりさんと化していた。
見た事もないような超高層の建物がこれでもかと立ち並び、空には鳥だけじゃなくシャチや人魚も泳いでる。
地を歩く人々(?)も、翼を持つ者もいれば、手足が複数ある者もいるし、二足歩行の猫、犬、ウサギや足のある蛇もいた。
アニメで言えばクールキャラであろう青い髪の美男美女のカップルがイチャイチャしながら目の前を通りすぎた。
ほぼほぼ地球人と同じ姿をしてるが、頭には二本のツノが生えていて、あれはきっと鬼族に違いない……って見たまんまか。
姿かたちはそれぞれ違っているけれど、みんな陽気でフレンドリーだった。
「あらぁ、そこの坊やは地球人かしら? キョロキョロしちゃって、まだ来たばかり?」
「不安そうな顔がカワイイわ。困ったコトがあったら、なんでも聞いていいのよ?」
「オイ、そこの! オラッチを撫でてもいいニャ!」
知らない人達からひっきりなしに声をかけられ、みんな揃って優しいものだから緊張もいくらか和らいでいく(当然猫族は撫でさせていただいた)。
「なんだジャッキー、人気じゃないか。まぁ、そのナリじゃあ、黄泉の国に来たばかりだとバレバレなんだろうよ」
ケラケラと笑う女神に、「自分、変な恰好してる?」と聞いてみると、
「少なくとも正装じゃあないな。どうだ、ジャッキー。手続きの前に身なりを整えるか」
とワクワク顔だ。
「整えるったって……自分、32円しか持ってないんだ」
その証拠にと、その場でピョンピョン跳ねてみせた。
「ケッ! シケてんなぁ! だが心配するな。黄泉の国はすべてがタダなんだから」
タダ……?
いや、だって……簡単には信じられなかった。
まわりを見れば、オジサンには敷居が高そうなオシャレな店がたくさん並んでいる。
パッと見ただけでも、服に靴に、化粧品、雑貨に宝石に美容院もある。
飲食に至っては、いろんな星の人達に対応する為なのだろう、高層ビル丸々すべてレストランになっていた。
これだけの店があるのに、そこに並ぶ商品がタダで手に入ると?
そんなバカな。
自分がおのぼりさんだからってからかってるんじゃないの?
「本当だよ。ウチがどうやって服を着替えたか覚えてるだろ? 黄泉の国にはさ、いろんな星の歴代の天才達が揃ってるんだ。その人達が衣食住すべてをまかなえるシステムを作ってくれてさ。さっきの早着替えもその一つだ」
そう言って女神は、ワンピースの裾を軽く持ち上げ片目を瞑った。
「本当はお店なんかなくたって、指を鳴らせば何でも手に入るけど、気の合うヤツと街をぶらぶらしたり、買い物するのは楽しいからな」
確かに、道行く人達は誰もが楽しそうに笑っている。
「お金のやり取りは無いけど、選んだ商品をレジに持っていけば、キレイな袋に入れて渡してくれる。おままごとみたいだけど買い物気分は味わえるんだ。
最初は戸惑うかもしれないけど、下手に通貨を導入すれば、トラブルの元になるだけだからさ。黄泉の国はこれでいいんだよ」
物を買うにも生活するにも何にだって金がいる。
ずっと当たり前だと思っていた常識が覆されてしまった。
黄泉の国でなら____
自分は無職の穀潰しではなくなるのだな。
金も稼げない家族のお荷物でもなくなるのだな。
ずっと苦しめられてきた悩みと劣等感から解放された瞬間だった。
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