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「ジャッキー、ここに入るぞ!」
バシッと背中を叩かれて、半ば強引に連れられたのは、オシャレすぎる美容院だった。
「ちょっと! 女神! こんなトコ無理!」
普段千円カットの5分で終了な散髪事情だというのに、しかもココ数年は引きこもりでそれすら行っていなかった。
伸びたらテキトウに自分で切っていたのだが、最近では面倒で長髪をひとつに結んでいる。
ガラス扉の奥はこれまたオシャレな造りになっていた。
壁一面が大きな鏡になっていて、そこに映る自分の姿に唖然とした。
誰だ……?
この薄汚い中年は……
白髪交じりの長髪は結んであるとは言え清潔感がなく、ヨレヨレのTシャツに着古したジャージがみすぼらしくて、スニーカーにこびりついた泥が半分乾いてまだらになっている。
ほとんどホームレスのような格好だ。
身だしなみに気を遣わなくなって数年。
鏡すらまともに見なかった結果がコレだ。
女神は店員らしき女性と親し気に話している。
時折自分を見てヒソヒソしているのだが、「あの汚いジジィをどうにかしてくれ」とでも頼んでいるのだろうか?
ホントにゴメン。
それにしても、よくもまぁ、あんなに若くてキレイな娘が、自分みたいな汚いオジサンに嫌な顔もせずに接してくれて……ありがたい限りだよ。
「お待たせしましたぁ」
間延びしたのんびり口調で近づいてきたのは、女神と話をしていた店員だ。
彼女は地球の、しかもアジア圏を思わせる容姿をしているのだが、背中には大きな片翼が生えていた。
きっとどこか別の星の宇宙人なのだろう。
「はじめまして、ジャッキー。今日はどんな感じにす____やだ! こんな時にどうしよう!」
急に慌てだす片翼の店員……って、
えっ!?
どうしたんだい!?
突然店員の身体が宙に浮き、手足をバタバタとさせてるじゃないの!
「キャー! コッチは接客中だってのに、もうっ! あわわわわ! ……ッ! 店長ーッ! こっち来てー! アタシ口寄せされちゃったみたいなのぉ! ちょっと呼ばれて現世まで行ってくるから、ジャッキーをお願、」
ブンッ!
短い電子音のような音と共に、片翼の店員は姿を消した。
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