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タコ店長は、初めて意思表示をした自分に嬉しそうに頷くと、いきなり尖らせた唇を自分のおでこ押し付けてきた。
や、柔らかい……ハッ!
そんなコトはどうでもいい!
なんで接吻っ!?
予想すらしなかった寄行に動揺し、ガッチガチに石化した自分のコトなどどこ吹く風で、タコ店長はなにやらチューチューと吸いついている。
それが自分の記憶を覗いてるのだと知ったのは、この後すぐのコトだった。
「なるほど、ジャッキーはジャッキーが好きなのねぇ。ワタシの唇はなんだってお見通しなの!」
自分の脳内にある、何万枚ものジャッキー・〇ェンの画像を覗き視て、その中でもベストショットを墨と一緒に吐き出すと、宙には凛々しくも愛嬌のある大スターが、等身大で映し出された。
それを凝視する事、数十秒。
「よし、覚えたわ、」
タコ店長は6本の腕を巧みに動かし(8本全部が足だと思っていたら、足は2本で残る6本が腕だと訂正された)、髪を短く切り、無精ひげを剃りと急ピッチで作業を進めていった。
髪と髭が終わると、次は着るものだった。
先程宙に映されたジャッキー・◯ェンの着ていた衣装。
カッコよくて動きやすい、イカしたカンフースーツに変えてくれた。
もちろんシューズも一緒にだ。
鏡の中の自分がどんどん変わっていく。
最初は見るのも辛かった小汚い中年が、時間をかけてパッと見ジャッキー・〇ェンまで仕上げてくれた。
感無量……!
タコ店長にはいくら感謝しても足りないくらいだ。
……
…………
………………
「ど、どうかな?」
すべてが終わり、ソファで居眠りをしていた女神を起こし、おずおずと尋ねてみる。
すると。
「……え? え? え? ジャッキー……だよな? 見違えたよ……すっごくイイ男になったじゃないか……」
と言うとそっぽを向いて、指先にクルクルと宇宙色の髪を絡ませ始める女神さま。
横顔の頬は赤く、髪に煌めく星々もルビー色に変化した。
あれ……?
もしかして女神、照れているのだろうか……?
って、まさかね。
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