第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「あーっ! ウチ、あの店に入りたーい! ジャッキー、付き合ってくれよ!」 このセリフを10回は聞いたと思う。 入国手続きセンターは終日開いている。 急ぐ必要はないからと、女神の買い物に付き合わされた。 服に靴に化粧品、とにかく引っ張りまわされた。 途中、喫茶店で(女神はカフェと言ってたが)お茶を飲み、一度行った店にまた戻るというコトを繰り返していたら、すっかり日が暮れてしまった。 「久しぶりにたくさん回ったー! ジャッキー、付き合ってくれてありがとな!」 女神のワンピースが茜色に染まっている。 腰まで伸びる長い髪が左右に揺れて、隣に並ぶ自分の手をくすぐった。 「いいんだ。自分も楽しかったよ」 明るいうちに街を歩くなんて一体何年振りだろう? ここ数年、穴蔵のネズミのような生活をしてきた。 みんなが自分を馬鹿にしてる気がして、人の目を避けるには部屋にこもるしかなかったからだ。 黄泉の国(ココ)にいる死者達は、容姿も文化も生まれた星も何もかもが違う。 だがそれを問題としない。 無職の引きこもりも、システムの天才も、カリスマ美容家も、みんながみんな対等で、それぞれ自由にやっていた。 そんな黄泉の国だから、女神が誘ってくれたから、気が付けば夢のような1日を過ごしていた。 強引な女神に振り回されて、なのに楽しくて仕方がなくて。 なんだか昔の自分に戻れたような、そんな気にさえなっていた。 「そうか、良かった。また一緒に街に来よう。黄泉の国(ココ)には遊べる場所が他にもたくさんあるんだ。100年あっても回り切れないくらいにな」 また一緒に来よう……か。 次なんてあるのかな? あるといいな、また女神に会いたいな。 明日も明後日もその次も、毎日でも会えたらいいのに。 …… …………ばかな、なにを考えているんだ。 そんなの無理にきまってる。 今日一緒にいれたのは、それが女神の仕事だからだ。 女神は光る道の担当者だと言っていた。 死者の魂を光る道に乗せ、黄泉の国まで迷わないよう誘導する。 到着したら入国手続きに同行し、完了すればおしまいだ。 明日になれば、また新しい死者を迎えるのだろう。 日々の忙しさに、きっと自分の事など忘れてしまう。 「ジャッキー、そろそろ入国センターに行こう。大丈夫、心配するな。終わるまで面倒見るから」 終わるまで面倒を見てくれるのか……ありがたいな。 だけど手続きが終わったら、もう会えなくなるのだろう? 「こっちだ、」 自分を見上げる可憐な笑顔が、なんだか妙に胸を締め付けた。
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