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「センターまで陣で行こう、」
街から入出国手続きセンターまでは遠くない。
歩いて行ってもいいのだが、早く移動に慣れるよう、あえて陣を使う事にした。
街中の陣はいたる所に設置され、女神に案内されたのは、来た時とはまた別の陣だった。
「使い方は簡単。陣の上に立ったら行きたい場所を口にする、それだけだ。さ、ジャッキー、やってみろ」
陣の上に2人で立った。
あとは目的地の名称【黄泉の国・入出国センターへ】と呟くだけだ。
失敗のしようがない簡単な作業。
自分は小さく溜息をついた。
女神の言葉を思い出したからだ。
____黄泉の国には遊べる場所が他にもたくさんあるんだ、
____100年あっても回り切れないくらいにな、
裏を返せばそれだけ黄泉の国は広いのだろう。
入国手続きが終わったら、女神とは二度と会えないかもしれない。
「ジャッキー、どうした?」
自分を覗き込む女神に、力なく笑って首を振った。
未練がましいな。
自分が情けなくなるよ。
こんなにキレイで優しい娘と、一日過ごせただけで十分幸せじゃないか。
いい加減諦めろ。
「ごめん、なんでもない。目的地を言えばいいんだよな。じゃ、今から言うぞ、
……………………陣よ……これから……黄泉の……黄泉の……クソ、言いたくないな、」
「ジャッキー?」
「あぁ、すまない。大丈夫、待って言えるから。……よ、黄泉の国入出…………こくs……セン……セン……うぅ……やだ……やっぱり嫌だっ! 陣よ! 2人を大草原へ!」
やってしまった。
一緒にいたい、離れたくない、という強い気持ちが本来の目的を捻じ曲げた。
「え?」と戸惑う女神の顔をまともに見る事ができない。
一方で陣は、自分の言葉を正確に呑み込んだ。
六芒星が緑色に発光し、身体は次第に溶けるような感覚に包まれていった。
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