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陽は沈み、空には零れんばかりの瞬く星が、大地には薄紫の夜光花が。
遥か遠く地平線では、この二つが薄く霞み混ざり合っていた。
「女神……その、すまない、」
センターで手続きをするはずが、女神に一言もなく目的地を変えてしまった。
なんでこんな事をしてしまったのか。
とにかくあやまらなくては。
そして、決して危害を加えるつもりはないと伝えなくては。
誰もいない夜の草原に男と2人。
若い女の子はきっと不安に思っているはずだ。
両手を高く上げ、数歩下がって距離を取った。
そして、
「本当にすまない。こんな事して どうかしてるな。だけど約束する、決して女神を襲ったりしない。すぐにセンターに移動しなおそう……いや、自分1人で行くべか。手続きは向こうで誰かに聞いて、なんとかするよ、」
溢れ咲く夜光花。
その中に立つ女神は、泣きたくなるくらい美しかった。
だがそこに昼間のような笑顔はなく、伏せた瞳には悲しみが浮かんでいた。
そんな顔をさせたかった訳じゃない。
離れたくなかった。
もう少し一緒にいたかった。
身勝手なこの気持ちが女神を傷付けた。
自分にできるのは、早くこの場を去るだけだ。
女神に背を向け、手を上げたまま陣へと向かう……が、引き止められた。
「待てよ、ジャッキー。手続きはウチがいないとできないぞ」
「……そうか。でも大丈夫だよ。向こうでなんとかする」
「なんとかならないよ……ねぇ、お願い待って、落ち着いて。ウチ、ジャッキーの気持ちが分かるんだ。手続き寸前で怖くなったんでしょう? 本当に死んじゃったんだって、実感湧いて悲しくなったんでしょう? 殺された時の事……思い出しちゃったの? かわいそうに……」
今にも泣き出しそうな女神は、まっすぐ自分を見つめてる。
一緒にいるのが楽しすぎて、殺された事はすっかり忘れてた。
この娘が心配するような理由じゃない。
ただ離れたくなかっただけなんだ。
まさか、そんな風に思ってくれてたなんて……正直に話そう。
もしかしたら、嫌われてしまうかもしれないけど、嘘をついて誤魔化して、泣かせてまで保ちたい体裁はないのだから。
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