第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

47/125
前へ
/2550ページ
次へ
◆◆ 「なんだよ、最初からそう言えば良かったじゃないか。心配して損したよ」 夜風が宇宙色の髪を遊ばせている。 美しいその人は、自分の隣に座り呆れたように笑っていた。 「いや……だって女神は忙しいだろう? 手続き(しごと)が終われば家に帰れるのに、まだ一緒にいたいなんて言いだせなかったんだ」 「そんなコト言って、強引に行先変えたのは誰だよ」 「むぅ……すまない、」 何も言えずに空を見上げれば、いくつもの流れ星が斜めに宙を切っていた。 女神のコトを願いたかったが、星はどれも一瞬で思うようにならない。 「手続きは明日だっていいんだ。今夜は星でも眺めてぼんやりしようぜ、」 そう言って女神は草の上に寝転んだ。 その時、心臓がぎゅっと掴まれるような感覚に襲われた。 見ちゃダメだ、咄嗟に目線をそらしたが……時すでに遅かった。 視界に入ったのはほんの数瞬。 なのに脳裏に焼き付き消えてくれない。 …… ………… 女神が背中を地に着けた時、スカートの裾にさざなみが立った。 そこから伸びる長い脚が夜光花に照らされて、白い肌は薄く青く発光しているように見えた。 細くて真っ直ぐで滑らかで、どうしようもなく艶めかしい。 触れてみたい、至極単純にそう思った。 思うだけで触れたりはしないけど、この気持ちを恥じる気にはなれなかった、仕方がないと思った。 女神の放つ強烈な磁力に、抗える男などいるのだろうか? そうだ、女なら誰でも良いのとは違う。 女神だから触れてみたい。 「ジャッキーも寝転んだらどうだ? こうやって星を見ると、めちゃくちゃキレイだぞ」 まったく……このお嬢さんはお気楽だ。 オジサンはアナタを前にドキドキしっぱなしだというのに。 「ジャッキー?」 無防備な二色の瞳が「隣に来ないの?」と言っている。 ああ、もう。 少しはオジサンを疑いなさいよ。 そんな目で見られたら、間違っても悪い事はできない。 「ん、なんでもない。どれ、オジサンも寝転んで天体観測と洒落込みますか」 脚に触れたい____ 「あははは、言い方がオッサンだ」 「いや……人のコト言えないよ? 女神だって相当オッサンみたいな話し方してるからね?」 髪に触れたい____ 「うそ!」 「ほんとだよ」 頬に触れたい____ 「きっとバグだ! バラカスの翻訳システムにバグが出たんだ! ウチ、オッサンじゃないもん!」 「バグじゃないだろ。だって女神言ってたよ? バラカスのシステムはスラングすら忠実に訳すってさ」 唇に触れたい____ ムキになってバラカスのせいにする女神が、ゴロリと横にこっちを向いた。 身体をくの字に曲げ、バタバタ暴れたと思ったら、スパンコールのサンダルをテキトウに脱ぎ捨てた。 そして、素足になった足先で自分の横っ腹を蹴ってくる。 痛くはない。 そう、これはただのおふざけだ。 その証拠に「ウチはオッサンじゃない」と笑ってる。 女神のおふざけに自分も乗った。 「イテテテ! 猫じゃないんだからっ、ヤメなさいって」 可愛いな____ 「リアルオッサンが若いウチに勝てると思うなー!」 「だからっ! 女の子が蹴りとか!」 勝てる訳がないよ____ 「あやまるなら許してやるぞ!」 「はい? 今の流れ、自分いっこも悪くないだろ、」 だめだ、愛しすぎる____ 「まぁな、でもオモシロイからやめなーい!」 「面白いで人を蹴るなー! それとな、女神パンツ見えてるぞ?」 抱きしめたい____
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加