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「パンツって……! きゃー! セクハラー! スカート危険! 安全服に着替えよっと!」
大げさに悲鳴を上げた後、女神は続けて数回指を鳴らした。
「セ、セクハラ? わっ、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ、って……ちょっと待って……その服……!」
お互いに寝転がったまま、横向きに顔を合わせていた。
女神がだいぶ暴れたせいで、その距離は最初に比べて随分と近い。
ニマニマといたずら娘のように笑う女神は、僅か0.02秒の瞬速で白のワンピースから安全服へと着替えを完了させていた。
その安全服が問題だった。
「店長から服のデータもらっといたんだ。びっくりしたか?」
言葉が出なかった。
コクコクと頷くしかできなかった。
そりゃそうだろ、今の女神はヨレヨレのTシャツに着古したジャージを身に付けて、得意そうに笑ってるんだから。
それ……黄泉の国に来る時に自分が着てた、古い部屋着だよな。
なんで女神が着てるんだ……?
しかもこんな格好すら可愛いって奇跡の人か?
かなり動揺していたのだが、女神の目には無反応に見えたのだろう。
つまらなそうにブー垂れた。
「オイ、ジャッキー。反応無しか? なんとか言えよ、」
そう言って強気な顔を向けられると、心臓は限界値を振り切って爆発寸前だった。
自分……もう1回死ぬかもしれない。
なにか言わなくちゃと頑張って、出たのはたったの一言、「汗……」だった。
「ん? 汗?」
ナニ言ってんだ?
そんな顔をする女神に、
「汗臭そうだから着たくないって言ってなかったか?」
と聞いた。
「言った、」
「なんで着てるの、」
「ダメか?」
「ダメじゃない」
ダメな理由が見当たらない。
好きな子が自分の服を着てるだけで、こんなにも嬉しくて幸せでドキドキするなんて、40にもなって初めて知った。
「そか。でも、あんまり驚かないな。つまらん、元に戻すか」
女神は指を鳴らそうと手を上げかけた。
「待てって!」
指が鳴る前に。
咄嗟に掴んだ手首は細くて華奢で、力を込めたら壊してしまいそうだった。
触れた肌から女神の熱が、自分の身体に流れ込んでくる。
横になったまま向き合って、さっきと体勢は変わらないのに、物理的な2人の距離は更に縮まっていた。
無防備だった二色の瞳は小さく揺れて、そこには自分の顔が映り込んでいる。
「手……痛くないか?」
力の加減はしてるつもりだったが、それでも聞かずにはいられなかった。
女神に少しでも痛い思いをさせるくらいなら、自分が八つ裂きにされた方が数倍もマシだと本気で思ったからだ。
女神は声を出さず、
幼子のように首を振り____
痛くない、と答えてくれた。
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