第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「パンツって……! きゃー! セクハラー! スカート危険! 安全服に着替えよっと!」 大げさに悲鳴を上げた後、女神は続けて数回指を鳴らした。 「セ、セクハラ? わっ、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ、って……ちょっと待って……その服……!」 お互いに寝転がったまま、横向きに顔を合わせていた。 女神がだいぶ暴れたせいで、その距離は最初に比べて随分と近い。 ニマニマといたずら娘のように笑う女神は、僅か0.02秒の瞬速で白のワンピースから安全服へと着替えを完了させていた。 その安全服が問題だった。 「店長から服のデータもらっといたんだ。びっくりしたか?」 言葉が出なかった。 コクコクと頷くしかできなかった。 そりゃそうだろ、今の女神はヨレヨレのTシャツに着古したジャージを身に付けて、得意そうに笑ってるんだから。 それ……黄泉の国(ココ)に来る時に自分が着てた、古い部屋着だよな。 なんで女神が着てるんだ……? しかもこんな格好すら可愛いって奇跡の人か? かなり動揺していたのだが、女神の目には無反応に見えたのだろう。 つまらなそうにブー垂れた。 「オイ、ジャッキー。反応無しか? なんとか言えよ、」 そう言って強気な顔を向けられると、心臓は限界値を振り切って爆発寸前だった。 自分……もう1回死ぬかもしれない。 なにか言わなくちゃと頑張って、出たのはたったの一言、「汗……」だった。 「ん? 汗?」 ナニ言ってんだ?  そんな顔をする女神に、 「汗臭そうだから着たくないって言ってなかったか?」 と聞いた。 「言った、」 「なんで着てるの、」 「ダメか?」 「ダメじゃない」 ダメな理由が見当たらない。 好きな子が自分の服を着てるだけで、こんなにも嬉しくて幸せでドキドキするなんて、40にもなって初めて知った。 「そか。でも、あんまり驚かないな。つまらん、元に戻すか」 女神は指を鳴らそうと手を上げかけた。 「待てって!」 指が鳴る前に。 咄嗟に掴んだ手首は細くて華奢で、力を込めたら壊してしまいそうだった。 触れた肌から女神の熱が、自分の身体に流れ込んでくる。 横になったまま向き合って、さっきと体勢は変わらないのに、物理的な2人の距離は更に縮まっていた。 無防備だった二色の瞳は小さく揺れて、そこには自分の顔が映り込んでいる。 「手……痛くないか?」 力の加減はしてるつもりだったが、それでも聞かずにはいられなかった。 女神に少しでも痛い思いをさせるくらいなら、自分が八つ裂きにされた方が数倍もマシだと本気で思ったからだ。 女神は声を出さず、 幼子のように首を振り____ 痛くない、と答えてくれた。
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