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「……痛くないなら良かった、……ねぇ、女神。さっき自分、驚いてないように見えた?」
もう、指を鳴らす気はないようだ。
だから本当は、手を放しても良かったんだ。
だけどそうはできなかった。
咄嗟とは言えようやく触れる事ができたのに。
離したくない、このままずっとこうしていたい。
女神の磁力は怖いくらいに惹き付ける。
「……たの、」
ん?
どうした、なんて言ったんだ?
声が小さくて聞き取れない。
なにを言ったのか知りたくて、自分は女神の傍に近づいた。
途端、髪の星はルビーに輝き、
同時、頬もバラ色に染まる。
「……失敗したかと思ったんだ、ジャッキーの服を着て驚かそうと思ったのに、反応が無いから……怒ったか呆れたかと思って……焦ったんだ、」
詰めた距離は、尻すぼみな小さな声を聞かせてくれた。
失敗した?
そんな訳ないだろう。
せっかく驚かそうとしてくれたのに、自分が動揺しすぎたせいで不安にさせてしまったのか。
「女神、違うよ……すごく驚いたし嬉しかった。自分の服を着たアナタが、可愛くて愛しくてどうにかなりそうだったんだ、」
小さな声でも十分に届く。
息が触れ合うくらいの至近距離。
腕を放さないままその近さで目が合うと、女神は驚き、隠れる場所を探すように、自分の胸に顔を埋めた。
その瞬間、自分の中で何かが決壊する音を聞いた。
抑えていた気持ちが膨れて暴れて、女神にもっと触れたくて、女神にもっと触れてほしくて、髪も、頬も、唇も、脚も、なにもかも手に入れたくて、他の誰にも渡したくなくて、明日も明後日もその次も100年経っても一緒にいたくて、笑ってほしくて、甘えてほしくて____もう、限界だ。
華奢な身体を一気に抱き寄せた。
二人の間の僅かな隙間さえ潰そうと、その身体を夢中になって抱きしめた。
女神はほんの短く身を固くしたものの、次第に力が抜けていき、腕の中に溶けていく。
激しく心臓が暴れ出し、耳鳴りがとまらなかった。
ルビー瞬く長い髪から甘い香りが漂って、頭の芯からクラクラする。
ふと見れば、髪から覗く小さな耳が赤く染まり、まるで見たことのない果物のようだった。
自分の意識は半分飛んでいたのかもしれない。
目の前の果物があまりにも美味そうで、抗えず吸い寄せられるように唇で触れた。
すると女神は、驚いて、だが自分の背中に細い腕を絡めてくれた。
その刹那、身体は雷に撃たれたように痺れ、女神以外の何もかもがどうでもよくなった。
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