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「ジャッキ……」
追い打ちをかけるように、女神の声が甘くなる。
背に絡む細腕が蔓のように締め付て、柔らかくて温かい女神の身体の感触が、自分を一層狂わせた。
「……ジャッキ……ジャッキ」
繰り返し呼ぶ声は変わらずに甘く、その甘声には女神自身が戸惑って、目が合うと泣き出しそうに伏せてしまった。
「女神……こっち見て、」
お願いするも、女神はむずがる赤子のようにイヤイヤと首を振る。
「女神……顔を見せて、」
伏せた顔を見せてくれない女神に焦れて、星の髪に唇をつけた。
途端、小魚が跳ねるように、毬が跳ねるように顔を上げた。
「女神……やっと見れた……もっと見せて」
左右異なる二色の瞳は潤み、熱がこもっていた。
その熱は自分にも伝染し眩暈が起こる。
大草原には自分と女神の2人きり。
邪魔する者は誰もいない。
すべてを奪ってしまおうか____
そんな考えが頭をよぎった。
気持ちが限界を越えていた。
他の誰にもとられたくない。
だが____
いや……だめだ……
なにより優先すべきは女神なのだ。
自分の気持ちに揺るぎはないが、女神の気持ちを聞いてない。
嫌われる事はしたくない。
ならせめて。
女神の体温を感じたくて、もっと吐息が聞きたくて、抱きしめる腕に力を込めた。
とその直後、
「ジャッキ……るし……」
なにか言おうとしている?
女神の声を聞き取ろうと、少しだけ腕を緩めて自分の耳を、女神の唇に近づけた。
すると。
「ぷは……ジャッキ……苦しいよぉ、」
緩んだ腕に何度も息を吐く女神。
細い身体に力が入らず、胸の中でクッタリと伸びている。
その様子に一気に血が引く思いだった。
愛しくて、幸せで、力が入りすぎてしまったようだ。
「ああ、すまない……! 苦しかったよな、痛かったよな!」
クソッ!
なにやってるんだ。
余裕なさすぎだろ。
この娘に痛い思いをさせてしまった。
ああ、女神さま。
どうか自分を八つ裂きにしてください。
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