第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「もうダイジョウブだよ……ごめんね、心配したか?」 緩めた腕の中。 女神の身体は死者と思えないほど温かかった。 そのぬくもりに、命の境界が曖昧になる。 死ぬってなんなんだろうな、と考える。 黒猫の艶の毛に水飛沫を散らしたような、女神の髪が静かに瞬いていた。 あんなコトをされたというのに、逃げるでも責めるでもなく、大人しく幼子のように手遊びをしている。 黙ったまま手指をこねて、だがきっと手遊びはどうでもよくて、自分がなにか話すのをジッと待っているように見えた。 なにを話せばいいのだろうか、 出会ったばかりで、こんなにも執着していると正直に言えば良いのだろうか? アナタが欲しくてたまらないと素直に言えばいいのだろうか? それとも、無理に抑えた熱量は、いつ爆発してもおかしくないのだと警告すればいいのだろうか? どれもこれも、女神に嫌われそうで言えそうにない。 「ごめんな、」 絞り出したのはありきたりな、それでいてなにが“ごめん”なのか分からない、形ばかりの音だった。 「なにが“ごめん”なの?」 なにが、と見透かされた問いかけに、もっともらしく女神に答える。 「……女神にあんなコトをした。大草原(ココ)に戻ってきた時に、アナタを襲わないって言ったのに。ごめんな……もう、」 しないから、と続けようとしてやめた。 そんな約束、守れる気がしない。 抗えない。 きっとまた、おかしくなるに決まってる。 「………………怖かったか?」 聞いたのは自分なのに、答えを聞くのが恐ろしかった。 怖がらせていたらどうしよう、嫌われたらどうしようと、まるで女を知らない小僧のようにざわついた。 「……ううん、」 少し間が開いて、短いけれど確かな否定に胸を撫でる。 「…………辛かったか?」 「……少し、でもだいじょうぶ」 「…………痛かったか?」 「……ううん、」 もう二つ胸を撫で、そして、 「…………嫌いになったか?」 と聞いた。 顔は見えない。 背中を包むように抱きながら、耳元に問いていた。 遊ぶ細指が止まり、 女神は首だけで振り返ると「ううん、ならないよ」と答えてくれた。
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