第六章 霊媒師OJT-2

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それからの6日間、父は私と口をきいてくれなくなりました。 私と目が合っても怒った顔でそっぽを向いたり、かと思えば悲しそうに俯いて、話しかけても聞こえない振りで逃げてしまうのです。 最初に東京行きを知った時の勢いはどこへやら。 そんなおかしな行動をとる父を見たのはこの時が初めてで、私はひどく動揺しました。 思えば、それだけ父は寂しかったのだと思います。 私が家を出る事もそうですが、私が母だけに上京の相談をしていた事、母が私の気持ちを聞いてすぐに父に話さなかった事、母が私を庇った事……それらの事ぜんぶが父を傷つけてしまったのです。 私は消耗していました。 家の中は今までにないくらいピリピリしているし、父と私に挟まれた母は気を遣って辛そうなのに、それでも懸命に私を応援してくれるからです。 「貴ちゃんは頑張って立派な美容師さんになりなさい。お父さんの事は大丈夫。お母ちゃんが必ず説得してあげるからね」 昔から私を溺愛するあまり何でも自分の思い通りにしようとする父とは反対に、母は私の気持ちを第一に考えてくれる人でした。 私の身勝手な嘘を信じて心から応援してくれる母。 押しこそ強いけど私を宝物のように想ってくれる父。 それぞれ方向は違うけど、そこにあるのは確かに私への愛情です。 その愛情を改めて目の当たりにした私は、本当に悩んだし考えました。 美容師になんてなりたいと思った事もないくせに。 18才にもなって本来あるべき目標もないくせに。 東京に行って何がしたいかもわからないくせに。 ただ、田舎から逃げたいだけの口実のくせに、それなのに。 両親に嘘をついて悲しませて、そこまでして上京する事に意味があるのだろうか。
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