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腕の中、細い腰が幾度か揺れて、女神の身体がこちらに向いた。
見上げる顔は微熱の子供を思わせて、きつく抱きたい欲に駆られる。
女神じゃない別の女が相手なら、今頃とっくに抱いていた。
苦しいと__甘さを伴う訴えに、いちいち付き合う事などしない。
女神は特別だ。
どんな些細な訴えもすべて聞いてやりたくなる。
秒速で想いが膨らみ続けてる。
このままでは自分はきっと壊れてしまう。
ちゃんと伝えなくてはならないと思った。
「……ありがとう。あのね、自分は女神が好きだ。出会ったばかりなのにどうしようもなく好きなんだ……前は、一目惚れに否定的な人間だったんだけど……アナタに会ってひっくり返されてしまった」
カンフースーツの襟ぐりの、すぐ下、胸の部分を両手で掴み、自分の言葉を真剣に聞く女神は、まるで真面目な生徒だった。
「生きていた頃は地獄だったよ。もちろん全部じゃない、良い時期もあったけど、事故に遭い、足も生きがいも失ってからは死んだように生きていた。残りの人生どうしていいか分からなかった。
それがね。命が尽きて黄泉の国に来て、アナタに会って一緒に過ごして、その時間が楽しくて幸せすぎて、辛かった過去なんて全部どうでもよくなった。
苦しみに縛られてたのに、何年ももがいてたのに、抜け出せないと思ってたのに、なのにアナタは、たった1日で自分を救ってくれた。地獄から引き上げてくれたんだ。
こんなの、好きにならない方がどうかしてる。
死んで良かったと思ったよ……不謹慎かもしれないけど、死んだからこそアナタに会えたんだから」
自分の気持ちを伝えたい。
次から次へと言葉が溢れて止まらない。
「さっき……女神に触れた時、意識が飛ぶほど幸せだった。ずっと触れていたいと思った。好きだから触れたくなる、他の女じゃダメなんだ、アナタに触れたいの」
今だってそうだ。
強くアナタを欲してる。
心も身体も時間もすべてが欲しい。
女神はさっき言ってくれた。
自分のコトを嫌いにはなっていないと。
でもね、それじゃあ足らないんだ。
「ねぇ……ひとつ聞いてもいい? 答えたくなければ答えなくていい。女神は……自分の事は好き……?」
平静を装ったつもりだった。
だが最後の方は声が掠れていた。
憎まれてはいない……だろうけど、自分に恋をしているか否かはわからない。
そうであってほしい。
女神の答えを聞く前に空を見上げた____
が、こんな時に限って、星は流れていなかった。
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