第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆◆ 星の雨を眺めていた。 空は低く、数多流れる星々が斜めに降る雨に見えた。 濡らさぬ雨の元。 片手は頭の下に、もう片手には眠る女神を抱いたまま、大草原のベッドに二人、横になっていた。 こんなに幸せでいいのかと思う。 愛しい女が腕の中。 細い身体に古いTシャツ1枚で、猫の仔のように眠っている。 胸にあたる女神の寝息がくすぐったくて、ついつい顔が緩んでしまう。 この幸せは自分の命と引き換えだ。 死んで黄泉の国に来れたから、ここで女神に出逢えたから、だから今この夜がある。 こうして女神といられるのなら、命などいくらでもくれてやる。 緩く風が吹き、夜光花がふわりと揺れた。 昼間見た花はどこにいってしまったのだろう? 時間で色を変える不思議な花は今はなく、一面、薄紫に光る夜光花だけが広がっていた。 黄泉の国(ココ)は不思議な場所だ。 地球の現世とはまるで違う。 花も、陣も、街も、大草原も、ここに住む人達も、すべてが目新しい。 数々のシステムは歴代の天才達が造ったと聞いた。 通貨の概念がなく、平和と公平が約束された国。 愛しい女が住む国。 幸せだ。 こんなに満ち足りた気持ちは初めてだ。 スタントで大技を成功させた時でさえ、女神との時間には勝てない。 「ん……ジャッキ……」 女神が目を覚ましたようで、腕の中で細い身体をモゾモゾさせている。 眠そうな顔を上げ、一瞬目が合ったものの、すぐに顔を埋めてしまった。 ああ、顔が見たい。 だけど、これもまた幸せだ。 髪に瞬く星々が青色に明滅していた。 白色と赤色は見たけど、青色にもなるのか。 どうも星の色は女神の感情とリンクしているようだった。 ダイヤモンドの白は平常時、仕事中はだいたいコレだ。 ルビーの赤は照れた時、怒った時、感情が昂った時。 なら青は? あとで聞いてみよう。 「おはよう、」 女神、と続けようとして言葉を止めた。 耳に響いた優しい声を思い出したからだ。 名前を呼んで____ 名前で呼んで____ ウチの名前は____ 「……マジョリカ、」 それは古きイタリアの陶器の名前なのだと言っていた。 白地に色が重なって、鮮やかで美しい絵が描かれているのだと。 マジョリカ、綺麗な名前だと思った。 女神にぴったりの名前ではないだろうか。 名前を呼ばれたマジョリカは、恥ずかしそうに顔を隠してしまった。 髪にキスして「こっち見て、」とお願いすると、自分の胸に唇をつけてから、ゆっくりと顔を上げてくれた。
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