第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆◆ 「夜が明けたら手続きに行こう」 自分のかいた胡坐の中にマジョリカが座っている。 指を鳴らして出してくれたコーヒーを飲みながら、これからの事を話していた。 マジョリカ曰く、入国手続き自体は簡単に終わるらしい。 なぜなら、 「悪人は審査の段階で弾かれる。入国審査に通った段階で、善人である事が証明されているからさ、手続き自体は簡単だ」 なのだそうだ。 入国審査? そんなモノがあったのか。 それなら自分も審査済ってコトなのかい? 「そうだ」と答えたマジョリカは、ついでに人が死んだ後、黄泉の国に来るまでの流れを説明してくれた。 まず、プライバシーなぞクソくらえレベルの情報収集力を豪語する、【黄泉(こうせん)情報調査機関】が、すべての生者の生まれてから死ぬまでの情報を収集・蓄積。 そして命が尽き、死者になった時点の情報から、黄泉の国に入国させるか否を【黄泉(こうせん)審査機関】が厳正かつ迅速に審査をし決定を下す。 黄泉の国へ迎える事が決まった死者の情報は、【光道(こうどう)開通部】通称、“光る道の担当”に降ろされる。 それを各担当オペレーターが死者のリアルタイム位置情報を掴み、足元まで光る道を伸ばすというのだ。 マジョリカが属しているのもこの【光道(こうどう)開通部】になり、自分が死んだ時、マジョリカが道を伸ばしてくれた。 光る道の担当者、オペレーターに降りる死者の情報はランダムなのだそうだが……もしもマジョリカの元に自分の情報が降りていなかったらと思うと……背筋が寒くなった。 「そうか? もしウチが担当じゃなかったとしても、後から出逢って絶対にこうなったと思うぞ?」 そんなの当たり前でしょう? 自信たっぷりに言い切るマジョリカを見ていたら、なんだかおかしくなってしまった。 「マジョリカは単純だな、」 この()は素直で直感的だ。 自分みたいにあれこれ悩んだりしないのだ。 スタント時代、飛んだり落ちたり潜ったりの連続で、安全確保の為の“IF(もし)”ばかり考えていた。 IFロープが切れたらこうしよう、IF突風が吹いたらこう逃げて、IF閉じ込められたら回避ルートは……スタントをするなら絶対不可欠な作業ではあるのだが、 ____好きだからだよ、 ____そう思うのはダメなコトなの? マジョリカはこう言ったんだ。 誤解も恐れず、あの時感じた素直な気持ちをぶつけてくれた。 この()が勇気を出して言ってくれたからこそ今がある。 そう考えると人を好きになる時に、IFは少々ジャマなのかもしれない。
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