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夜光花が咲いてるうちは、陽は上がらないとマジョリカが言った。
見渡せば、大地を埋める夜光花は、陰りを見せず優しく光を放っている。
入国手続きに行くまでに、まだまだ時間がありそうだった。
マジョリカに気付かれないように、首にかけているチェーンを外した。
普段、ほとんどアクセサリーを着けないのだがコレだけは別だ。
そんなに高い物ではない、シルバーのボールチェーンとカジュアルリング。
チェーンはドッグタグを下げるのに使われるのと同じタイプだ。
チェーンに通したシルバーリングは、幅のあるゴツイデザインで、スタントマンとして貰った初めての給料を、みんな突っ込んで買ったのもだ。
一点物の特注で、どこかの民族の文字で【神のご加護を】という意味が彫ってある。
当時スタント仲間で流行っていたのだ。
危険が伴う仕事ゆえ、願掛けのつもりで自分も買った。
それ以来ずっと身に着けている。
事故に遭ったあの日も着けていた。
死んで然りの状況で、足と引き換えに生き永らえた。
付き合ってきた元カノ達にねだられた事もあったけど、これだけはあげられないと断ってきた。
良い時も悪い時もそばにあった、自分にとってはとても大事なリングだ。
「ねぇ、マジョリカ」
華奢な肩を軽く掴み、そのまま自分に引き寄せると「ん?」と顔を斜めに振り向いた。
唇がやけに赤くて目を奪われる。
話を続ける前に、その赤色にキスをすると……甘い。
不意を突かれたマジョリカは「ん、」と驚き目を丸くした。
その顔が可愛くて、何度も何度もキスをして……話の続きができたのは、それからしばらく経ってからだった。
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