第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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あっと言う間だった。 カンガル族は瞬時に腰を落とすと、股関節ごと回すがごとく、筋肉質な脚を蹴り込んできた。 それは自分の義足にヒットして、装着部分を大きく揺らすと、膝を包むように着いていたソケットが外れた。 結果、身体を支えるモノが無くなって、自分は見事なまでに転倒した。 「ジャッキッ!」 蒼白のマジョリカが駆け寄って、自分の上半身を抱き起してくれた。 細い身体で意外と力があるんだな……などと感心したが、ははは、カッコ悪い。 いきなりのローキックにびっくりはしたが、カンガル族も悪気はないのだろう。 別の星の文化としてお祝いの気持ちを表してくれたのだ。 義足でなければ転倒もしなかった、かえって驚かせてしまったかもな。 そして義足だからこそ、あたったふくらはぎに痛みはない。 膝の切断面が多少疼くが、これもたいしたコトじゃない。 「あぁ! ご、ごめん! ヒト族相手だから手加減したつもりだったんだが!」 カンガル族は大慌てで頭を下げている。 なんだか憎めないヤツだ。 「いや、大丈夫だよ。怪我もないし、祝福してくれたんだろう? ありがとう」 そんなカンガル族に白雪ちゃんは、 「あれほど言ったでしょ! キックもパンチも戦闘民族と私以外にはしちゃダメなの!」 とお説教を始めたのだが……カンガル攻撃、白雪ちゃんにはしていいんだ。 まぁ、業務用冷蔵庫くらいの体躯なのだ。 ちょっとやそっとのヤツには負けないのだろう。 「ジャッキ、ジャッキ、大丈夫か? 痛かったか? 立てるか?」 マジョリカはベソをかいていた。 二色の瞳は涙で滲み、人前だというのに乗っかるように抱き着いている。 生きていた頃は、必要以上にベタベタされるのが苦手だったのに。 この()は特別だ。 マジョリカの身体の温かさと柔らかさは心までも癒してくれる。 「ごめん、心配したね。ダイジョウブ、転んだだけだ」 華奢な身体をギュッと抱きしめ、愛しいマジョリカにキスをした。 早く義足を取り付けて安心させてやろう。 マジョリカも、カンガル族も。
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