第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「待ってくれ! 自分がまだ生きてる? おかしいだろ! それなら何故光る道を渡ってこれた? 何故今、黄泉の国(ココ)にいる? それは死んでいるからだろ? 自分が死者だからだろ? いくら白雪ちゃんの言う事でも信じられない。自分は死者だ、黄泉の国(ココ)でマジョリカと生きていくんだよ!」   女性に____ こんなに声を荒げたのは初めてだった。 愛しいマジョリカの優しい友人。 自分にとっても良い友人になりえるかもしれない人なのに。 頼む……自分は死んでいると言ってくれ。 驚かしたかっただけだと。 早く手続きを終わらせて、バラカスに会いに行きたいんだ。 「ジャッキーさんは、マーちゃんから黄泉の国(ココ)の“オートリカバー”の話を聞いてますか? 電気の集合体である死者の身体が傷つくと、宙を漂うフリーの電気が自動修復をかけるシステムです」 白雪ちゃんの顔から表情が消えた。 システマチックに淡々と、だが片目から涙が一筋流れている。 「…………ああ、聞いた」 「話が早いです。黄泉の国(うち)の各システムは、すべて無敗を誇っています。後からバグが出て修復パッチを入れるような事はまずありません。なぜなら、各開発者達のプライドが練り込まれているからです」 開発者……歴代の天才死者達の事か。 「…………だからなんなんだ? もっと端的に言ってくれ」 ああ、嫌な言い方だ。 白雪ちゃんは何一つ悪くないのに。 「すみませんでした、では端的に。 オートリカバーが適応されれば、無くなった足の1本や2本、再建するのに3秒もかかりません。そもそも各星々と黄泉の国を繋ぐ光る道、あれにもオートリカバー簡易版がついています。死者となればその時点で肉体から解放され、霊体(からだ)の表面の損傷はその場で自動修復されます。修復しきれなかった内側の損傷……持病などは、光る道を進む事により6割程度回復されますし、残りの4割りも黄泉の国(ここ)に降り立った時点で全回復します。 ジャッキーさん。先程も言いましたが、黄泉の国(うち)のシステムは無敗なんですよ。それなのに……何故貴方の足は義足のままなのでしょうね」 背中に冷たい汗が流れる。 目線だけを下に、布に隠れた義足を捉えた。 死者であれば再建可能。 自分の足は____ 「きっと1度は心臓も止まったのでしょう。その段階で審査が終わり入国許可が出たのだと思われます。ですが完全な死ではなかった。生と死を小刻みに行き来して、生者と死者の狭間に立っていた。ですがそんな事、黄泉の国のオペレーターには分かりません。死者の情報が降りてくれば、そのまま道を伸ばします」 「そんなの無責任じゃないのか? それこそシステムの穴なんじゃないのか?」 「いいえ、それくらいは想定内です。通常、地球から黄泉の国まで、平均到着時間は48時間。たまたまではありません、48時間かかるようルートを組んでいるからです。なぜそこまで時間をかけるのか。それは極稀に、なんらかの理由と条件で死者が蘇生する事があるからです。 ジャッキーさんは日本の方ですよね? 日本のセレモニーでも死亡から火葬まで24時間空けているはずです。多くはありませんが、過去に蘇生による事故(・・・・・・・)があったからです。 光道(こうどう)では、倍の48時間で設定。道を渡っている途中で蘇生した場合、その時点で肉体が魂を強制的に呼び戻します。抗う事は叶いません」 「……自分は呼び戻されなかった。という事は、やっぱり死んでるんじゃないのか?」 そうだ、自分は黄泉の国(ここ)まで光る道を渡り切った。 それが死者である何よりの証明じゃないか。 その時、床の上にへたり込んでいたマジョリカが力なく声を発した。 「…………分だ、」 泣きすぎて目が腫れている。 崩れるように、絞り出すように、絶望の色を滲ませた声がもう一度発せられる。 「…………5時間22分、地球から黄泉の国までかかった時間。歴代死者達の最短記録だ……ジャッキだけの記録……たぶん……蘇生したのはそれより後だ、」
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