第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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言い終えてマジョリカは()から光を失った。 床の一点を見つめ動かない。 【光道(こうどう)開通部】キャリア3桁超えの白雪ちゃんは、そんなマジョリカを無言で眺め、そして自分に向き直る。 「一度黄泉の国(ここ)に入ってしまえば、蘇生しても肉体は魂を呼び戻す事は出来ません。現世に戻るには、もう一度光る道を肉体まで伸ばし、一旦道の上に立てばあとは肉体が引っ張ります」 「……戻らない! 黄泉の国(ここ)にいる限り、肉体は魂を引っ張れないんだろう? 自分は残る、黄泉の国(ここ)で現世の自分が尽きるのを待てば、死者になれるじゃないか!」 それは……と言い淀む白雪ちゃんの様子から、不可能ではなさそうだ。 そもそも、カンガル族が祝いのローキックをしなければ、分からないままだっただろう。 蘇生したとはいうが、仮死状態までなったのだ。 このまま放っておけば、完全に命が尽きるのにそう時間はかからないはずだ。 「ジャッキーさん、言いにくい事ですが私もマーちゃんも【光道(こうどう)開通部】のオペレーターです。本当に何も知らなければ、それも通ったかもしれません。ですが知ってしまった、」 「……ッ! そうかもしれないけど、」 「ジャッキーさんは不正をしろと仰るのですか? 私はともかくマーちゃんにも。 マーちゃんは……元私の教え子です。開通部に入った当初、この子は頭は良かったのにやる気がなかった。17才で死んでしまって無気力になっていたんです。でもね素直な子です。徐々に元気を取り戻して、一生懸命仕事を覚えました。勤続15年、今ではチーフ職です」 愛おしそうにマジョリカを見る白雪ちゃんは、優しい姉のような顔をしていた。 「覚える事がたくさんあります。色んな星の死者達の対応をするには、ある程度その星の文化を分かっていなければ信頼もされません。研修中は勉強と試験の連続です。泣いて辞める子もたくさんいます。いざ研修を終えて現場に出ても、死んでしまって取り乱す死者のケアも必要となります。はっきり言って離職率も高いです。それでも残って頑張る子はオペレーターとしてのプライドを持ってます。ジャッキーさん、貴方は努力してきたマジョリカにプライドを捨てろと仰いますか?」 何も言えなかった。 マジョリカの努力、マジョリカのプライド、マジョリカの積み上げてきたもの、それを自分が壊していいはずがない。 ああ、だけど、あんなに泣いてるマジョリカを置いて現世に戻るのか? マジョリカの笑顔、優しさ、温かさ、柔らかさ、甘さ、それらを手放す事が出来るのか? 無理だ……他には何もいらないんだよ。 マジョリカ以外に欲しいものはないんだよ。 どうしたらいい? 泣いてるマジョリカを抱きかかえ、そのまま何処かへ逃げてしまおうか。 その時。 不意にフロアがざわついた。 わぁ、おっきいい! 見て見て! カワイイよー! キュルンって鳴くんだね! キャー小首傾げてるぅ! 振り返るとそこにはバラカスがいた。
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