第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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可愛らしい巨大パンダが現れて、フロアにいる死者達は黄色い声をあげている。 日本の二階建住宅と同等の大きな身体。 黄泉の国入出国センターは、そんなバラカスですら余裕で迎えていた。 「ケッ、どいつもこいつもシケた(ツラ)してんじゃねぇよ。それからジャッキー、昨日の夜はマジョリカと一緒だったな? 俺の娘になにしやがった、殺すぞ?」 口悪。 パンダの見た目と中身のギャップが激しすぎる。 フロアの人達はすっかり騙されているが、本当はこんなに毒舌だと知ったら…… ____いや、待て。 なんで自分はバラカスの言葉が分かるんだ? 昨日は「キュゥキュゥ」と鳴いてるにしか聞こえなかった。 アイツは自分の口の悪さを知っている。 まわりとトラブルを避ける為、一部の者以外はあえて何を話しているか分からないようにしてたはず、自分だってそうだった。 バラカスの言葉はマジョリカが訳してくれたのに。 「なんで俺の言葉が分かるのかって(ツラ)だな。昨日食っただろ? 俺の笹。バカみてぇによ、一本丸々食いやがった。アレで俺とオマエは繋がったんだよ。つか、俺が繋げたんだけどな」 そうだ、「俺の笹が食えないのか」のプレッシャーに、出された笹を全部食べた。 そのおかげでバラカスの言葉が分かるようになったというのか。 バラカスは自分の横を素通りすると、迷わずマジョリカを抱きあげた。 途端、マジョリカは叫ぶように泣き出して、バラカスは無言で背中を撫ぜている。 しばらくしてそれが落ち着くと、巨大パンダは白雪ちゃんに目線を移した。 「オイ白雪ぃ。相変わらずオマエは堅いなぁ、固いのは筋肉だけで充分だ。ま、生前は一国の女王様だ、政治に軍事に判断と決断の連続だっただろうがよ、ココは黄泉の国だぜ? あんまり堅いコト言うなよ。いいじゃねぇか、ジャッキーをこのまま黄泉の国(ココ)に置いてやれ」 バラカスはマジョリカの背中を撫ぜながら、グイッと身をかがめ、白雪ちゃんにメンチを切っている。 黒い楕円の奥の目は全く笑っていない。 そんなバラカスに白雪ちゃんは一歩も引かなかった。 「堅くて結構。私はもう女王ではありませんが、今は【光道(こうどう)開通部】の(おさ)です。国民をまとめるのも職員をまとめるのもなんら変わりはありません。規律は必要です。一度例外を認めれば、その後が崩れます。なによりマジョリカは人の何倍も頑張ってきのに、不正をすればペナルティが付きます。あの子の今までの努力を無にする事は出来ません。それに、ジャッキーさんが現世に戻っても、いつかはまた黄泉の国(ここ)に帰ってくるんです」 白雪ちゃんの正論中の正論に、ケケケッ! と、馬鹿にしたようにバラカスが笑った。 「そりゃあよぉ、理屈じゃそうだ(・・・・・・・)。けどな、心はそう簡単には割りきれねぇ。白雪、オマエ好きな男はいねぇのか? まぁ、女でもいいがよ。誰かを好きで好きでたまらなくなったコトはねぇのか? 欲しくて与えたくてたまらねぇ、普段は出来るマトモな判断が何一つ出来なくなるような、頭ん中、狂っちまって愛しさだけが支配するようなよ。なぁ?」 白雪ちゃんは、はぁっと溜息をついた。 そして、 「その質問に答える必要はないと判断します。なにも、2人を永遠に引き裂こうとしてるのではありません。マジョリカが結婚すると聞いた時は本当に嬉しかった。今でも2人を祝福しています。ジャッキーさんが現世に戻っても、しばらく待てば会えるんですよ。それに……もしこのまま黄泉の国(ここ)に残ったとして、後々後悔し、おそらくしこりが残ります」 と表情を崩さない。 崩したのはむしろバラカスの方だった。 「んあ? 白雪ぃ、後悔するってなんだよ、ああ……オマエなんか隠してるな? まだ言ってねぇ情報があんだろ、言え」 「……隠していた訳ではありません。ただ、今のジャッキーさんに見せるには少々酷と思われる映像を持っています。先程、急いで状況確認をしたした時に手に入れました。……これを見てしまえば、有無を言わさず帰らざるを得ないでしょう。出来れば……納得して現世に帰って頂きたかった」 「ケッ! 小娘がいらん知恵回してんじゃねぇよ。大方アレだろ? 『融通の利かない私を憎んで、それを力にしてもらいたかった』ってか? ウゼェな。そんなの自己満足の他ならねぇ。ジャッキーは知らんが、マジョリカは単純だ。かえって傷つける。まあいい、早くその映像を見せろ。もちろん、マジョリカとジャッキーにもだ」
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