第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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映像はそこで終わった。 まだ続きがあるのかもしれないが、白雪ちゃんはDOS画面を2回指でタップしてそれを消した。 「こりゃぁ、ヘビーだな」 パチンと爪先を鳴らしたバラカスが、出現させたタバコに火を着ける。 器用に手に持ちスゥーっと深く吸い込むと、溜息と共に煙を吐き出した。 もう、何も言えなかった。 こんな映像を見せられて、それでもまだ黄泉の国(ここ)に残りたいとは言えなくなった。 家族が泣いている。 小林も泣いていた。 アイツ……あんなに痩せちゃったんだな、 小林は最初より頻度は減ったものの、それでも10日(とおか)に1度は訪ねてきてた。 仕事だってあるだろうに、どんなに疲れていてもやってきた。 そして勝手に金を置いていく。 手を付けた事はない、持って帰れと散々言ったが聞かなかった。 来ても会わない日の方が多かった。 それを差し引いても、小林があんなにやつれていた事に気が付かなかった。 まともに顔を見ていなかったんだ。 もしもあなたが逝くんなら必ず俺も後を追いますから____ 会って直接謝りに逝きますから____ 悲痛なまでの小林の言葉が、頭の中に繰り返される。 7年前、事故の日から自分は地獄に落とされた。 だけどそれは小林も同じだったんだ。 もしかしたら、ある意味、被害者である自分の方が楽だったのかもしれない。 加害者の小林はどれだけ苦しんだのだろう。 白雪ちゃんが言っていた“しこりが残る”とはこれの事だったんだ。 このまま肉体が死ぬのを待って、黄泉の国(ここ)でマジョリカと暮らしても、きっとすぐに小林がやってくる。 小林はこの広い黄泉の国で、必ず自分を見つけ出すだろう。 そして、病室でそうしたように震えながら土下座をするのだろう。 責任を感じ、自分に謝る為だけに、自らの未来も命も放棄してやってくるんだ。 それを目の当たりにした時、自分もマジョリカもどう思うのだろう? 小林の犠牲の上で成り立つ幸せは、本当に2人を幸せにしてくれるのだろうか? 答えは否だ。 白雪ちゃんはそこまで読んでいたんだ。 【光道(こうどう)開通部】の(おさ)だから、規律があるから、それだけで自分に現世に戻れと言ってたんじゃないんだ。 マジョリカ……自分はどうするのがベストなんだろう。 パチン、と指を鳴らす音がした。 見なくても分かる。 これはマジョリカの指の音だ。 細くて華奢な指。 先は桜色に艶めいて、自分の耳に爪を立てた。 その痛みと甘さに狂いそうになったんだ。 「ジャッキー、」 目の前に立つのは愛しい女。 ヨレたTシャツとジャージから、スーツ姿に変わってる。 早着替えだ……マジョリカ、綺麗だな。 真っ白なブラウスに濃紺色のビジネススーツ。 膝丈スカートはタイトにしまり、そこから伸びる脚がどうしようもなく眩しく見えた。 腰まで伸びる長い髪は、後ろにひとつに結わいてる。 高い位置からサラサラと、マジョリカが動くたびに左右に揺れた。 今、艶の髪には無数のダイヤが煌めいている。 マジョリカの星が再び輝きを放ち始めていた。
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