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映像はそこで終わった。
まだ続きがあるのかもしれないが、白雪ちゃんはDOS画面を2回指でタップしてそれを消した。
「こりゃぁ、ヘビーだな」
パチンと爪先を鳴らしたバラカスが、出現させたタバコに火を着ける。
器用に手に持ちスゥーっと深く吸い込むと、溜息と共に煙を吐き出した。
もう、何も言えなかった。
こんな映像を見せられて、それでもまだ黄泉の国に残りたいとは言えなくなった。
家族が泣いている。
小林も泣いていた。
アイツ……あんなに痩せちゃったんだな、
小林は最初より頻度は減ったものの、それでも10日に1度は訪ねてきてた。
仕事だってあるだろうに、どんなに疲れていてもやってきた。
そして勝手に金を置いていく。
手を付けた事はない、持って帰れと散々言ったが聞かなかった。
来ても会わない日の方が多かった。
それを差し引いても、小林があんなにやつれていた事に気が付かなかった。
まともに顔を見ていなかったんだ。
もしもあなたが逝くんなら必ず俺も後を追いますから____
会って直接謝りに逝きますから____
悲痛なまでの小林の言葉が、頭の中に繰り返される。
7年前、事故の日から自分は地獄に落とされた。
だけどそれは小林も同じだったんだ。
もしかしたら、ある意味、被害者である自分の方が楽だったのかもしれない。
加害者の小林はどれだけ苦しんだのだろう。
白雪ちゃんが言っていた“しこりが残る”とはこれの事だったんだ。
このまま肉体が死ぬのを待って、黄泉の国でマジョリカと暮らしても、きっとすぐに小林がやってくる。
小林はこの広い黄泉の国で、必ず自分を見つけ出すだろう。
そして、病室でそうしたように震えながら土下座をするのだろう。
責任を感じ、自分に謝る為だけに、自らの未来も命も放棄してやってくるんだ。
それを目の当たりにした時、自分もマジョリカもどう思うのだろう?
小林の犠牲の上で成り立つ幸せは、本当に2人を幸せにしてくれるのだろうか?
答えは否だ。
白雪ちゃんはそこまで読んでいたんだ。
【光道開通部】の長だから、規律があるから、それだけで自分に現世に戻れと言ってたんじゃないんだ。
マジョリカ……自分はどうするのがベストなんだろう。
パチン、と指を鳴らす音がした。
見なくても分かる。
これはマジョリカの指の音だ。
細くて華奢な指。
先は桜色に艶めいて、自分の耳に爪を立てた。
その痛みと甘さに狂いそうになったんだ。
「ジャッキー、」
目の前に立つのは愛しい女。
ヨレたTシャツとジャージから、スーツ姿に変わってる。
早着替えだ……マジョリカ、綺麗だな。
真っ白なブラウスに濃紺色のビジネススーツ。
膝丈スカートはタイトにしまり、そこから伸びる脚がどうしようもなく眩しく見えた。
腰まで伸びる長い髪は、後ろにひとつに結わいてる。
高い位置からサラサラと、マジョリカが動くたびに左右に揺れた。
今、艶の髪には無数のダイヤが煌めいている。
マジョリカの星が再び輝きを放ち始めていた。
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