第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「マジョリカ……自分は、」 現世に戻る以外に選択肢はない。 頭じゃ分かっているのに「現世に戻る」この一言が喉につかえて出てこない。 ああ、クソッ! 未練がましいな、何故言えない! マジョリカは踏ん切りのつかない自分をジッと見つめてる。 その二色の瞳には静かな力が宿っているように見えた。 泣きじゃくり、絶望に光を失っていた目ではなく、もっとこう未来を見据えたような強さと意思を感じる。 ああ、そうか。 今更気付くなんてな、あの目は17才の少女じゃない。 32才の大人の女性だ。 それでも8コも年下だけど、自分よりマジョリカの方がずっと強い。 マジョリカはとっくに覚悟を決めたんだ。 このままでは自分は置いて行かれる。 強くならなくちゃいけない。 マジョリカ、もう一度名前を呼ぼうと思った時だった。 カツンと床を踵で鳴らし、肩幅大に開いた脚で、少し離れた自分の前に立った。 そしてフロア中に響き渡るような大声を上げた。 「ジャッキが光る道を休みもしないで走ってきたから! 出発から到着まで5時間22分! ったく、歴代最短記録だ! 普通に来れば途中で現世に戻ってたのに!」 ああ、すまない。 その通りだよ、返す言葉がない……だが、それでも自分は…… 「死者のウチと生者のジャッキ。本来ウチらは出逢わないはずだったんだ! 出逢わなければこんなに辛い想いもしなくてすんだのに!」 ああ、そうだ。 すごく辛いよ、本来出逢う運命じゃなかった。 それを自分が捻じ曲げた、 「昨日だってそうだ! 陣でセンターに行こうとしたのに! ジャッキは勝手に大草原に行先を変えちゃった!」 ああ、変えた。 何も言わずに変えた、どうしても離れたくなかったんだ。 アナタと一緒にいたかったんだ。 「ジャッキはさ、二回も運命を変えちゃったんだよ! 本当は出逢わなかったし、出逢っても昨日手続きが終わったらそれでウチらも終わるはずだった!」 フーフーと息を吐くマジョリカの髪の星はローズピンクに色を変えた。 初めて見る色だ……あの色の意味するものは、 「……でも……終わらなかった……繋がったんだ……ジャッキはさ、光る道を走って走って走ってさ……運命を捻じ曲げてでもウチに逢いに来てくれたんだろう? ウチを好きになるために、ウチを好きにさせるために、ウチと愛し合うために、」 フロアがシンと静まっていた。 静寂の中、堪える嗚咽だけが切れ切れに聞こえてる。 みんなが見守る中、マジョリカの細い脚は小刻みに震え、それでもしっかり立ち続け、瞳に宿る力には衰えが見えなかった。 今のマジョリカは、まるで手負いの獣のように美しい。 自分も応えなければならない。
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