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◆◆
今回移動に陣は使わなかった。
グツグツに煮立ったバラカスは、有無も言わさず自分の胴を引っ掴み、止めるマジョリカを振り切って瞬間移動をかけたのだ。
キィィィィィンッ!
耳鳴りに似た異音と共に到着したのは、殺風景な部屋……なんだろうが、なんたってバラカス仕様なので、学校の体育館以上の大きさがあった。
「着いたぞ、」
不機嫌そうな声のバラカスは、あえて低い位置から自分を投げ捨てる。
「イッテ……」
あーあー、これは相当怒ってる。
昨日みたいに高い位置から放ってくれれば、着地までに体制を整えられるが、低い位置ではそれが出来ない。
それでも、研究所の床は板ではない。
一面芝生が敷き詰められて、それが良いクッションになってくれた。
しかし……研究所だって言ってたよなぁ。
それにしたって物が無さすぎだ。
本とかパソコンとかありそうな物はなにもない。
あるのは研究等になんの関係も無さそうなローテーブルとシングルベッドなのだが、バラカスには小さすぎる。
頑張っても手のひらしか乗せられないだろう。
あれは、地球のヒト族が使うのに丁度いい大きさだ。
しかも小柄な人間向け、たとえばマジョリカのような。
「オイ、なにジロジロ見てんだ、しばくぞ」
口悪……まぁ、今回はデフォルト+アルファなんだろうけど。
「いや、すまない。ジロジロ見るつもりじゃなかったんだが、あのテーブルとベッド。バラカスには小さいだろうなと思ってな」
「なぁそれ、分かっててワザと言ってんのか? あれはマジョリカのだ。と言っても昔ほど使わなくなったけどな。アレがまだオペレーターになりたての頃、研究所で勉強してそのまま寝ちまう事が多かったんだ。それで用意した。毎回新しいベッドを出すのもメンドウだし」
言いながら爪を鳴らして、巨大な古タイヤを出現させたバラカスは、ドカっとそこに腰掛けた。
自分も少し距離を開けて芝生の上に胡坐をかく。
それからバラカスはしばらくの間、黙り込んでいたのだが、不意に口を開きこう言った。
「マジョリカは可愛い」
同意だ。
「俺にとっては娘みたいな存在だ。アレが黄泉の国に来て15年、俺達はずっと一緒だ。マジョリカは美人だからよ、言い寄る男は沢山いたよ、地球人もそれ以外も。だが全員残らず俺が潰した」
あー、マジョリカの言った通りだ。
このパンダ本当に潰してたんだ。
「何人潰したかは覚えちゃいねぇ。どいつもこいつも俺に言わせりゃロクな奴じゃなかったからな。二人っきりになんて絶対させねぇ、常に俺が一緒だ。ケケケッ! ザマァ見ろだぜ!」
今の自分の立場としては、潰しまくってくれたバラカスには感謝しかないのだが、なにがそんなに気に入らなかったんだ?
それと……それならどうして、自分はマジョリカと二人きりにさせてくれたんだろう?
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