第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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◆◆ 今回移動に陣は使わなかった。 グツグツに煮立ったバラカスは、有無も言わさず自分の胴を引っ掴み、止めるマジョリカを振り切って瞬間移動をかけたのだ。 キィィィィィンッ! 耳鳴りに似た異音と共に到着したのは、殺風景な部屋……なんだろうが、なんたってバラカス仕様なので、学校の体育館以上の大きさがあった。 「着いたぞ、」 不機嫌そうな声のバラカスは、あえて低い位置(・・・・・・・)から自分を投げ捨てる。 「イッテ……」 あーあー、これは相当怒ってる。 昨日みたいに高い位置から放ってくれれば、着地までに体制を整えられるが、低い位置ではそれが出来ない。 それでも、研究所(ココ)の床は板ではない。 一面芝生が敷き詰められて、それが良いクッションになってくれた。 しかし……研究所だって言ってたよなぁ。 それにしたって物が無さすぎだ。 本とかパソコンとかありそうな物はなにもない。 あるのは研究等になんの関係も無さそうなローテーブルとシングルベッドなのだが、バラカスには小さすぎる。 頑張っても手のひらしか乗せられないだろう。 あれは、地球のヒト族が使うのに丁度いい大きさだ。 しかも小柄な人間向け、たとえばマジョリカのような。 「オイ、なにジロジロ見てんだ、しばくぞ」 口悪……まぁ、今回はデフォルト(プラス)アルファなんだろうけど。 「いや、すまない。ジロジロ見るつもりじゃなかったんだが、あのテーブルとベッド。バラカスには小さいだろうなと思ってな」 「なぁそれ、分かっててワザと言ってんのか? あれはマジョリカのだ。と言っても昔ほど使わなくなったけどな。アレがまだオペレーターになりたての頃、研究所(ココ)で勉強してそのまま寝ちまう事が多かったんだ。それで用意した。毎回新しいベッドを出すのもメンドウだし」 言いながら爪を鳴らして、巨大な古タイヤを出現させたバラカスは、ドカっとそこに腰掛けた。 自分も少し距離を開けて芝生の上に胡坐をかく。 それからバラカスはしばらくの間、黙り込んでいたのだが、不意に口を開きこう言った。 「マジョリカは可愛い」 同意だ。 「俺にとっては娘みたいな存在だ。アレが黄泉の国(ココ)に来て15年、俺達はずっと一緒だ。マジョリカは美人だからよ、言い寄る男は沢山いたよ、地球人もそれ以外も。だが全員残らず俺が潰した」 あー、マジョリカの言った通りだ。 このパンダ(ひと)本当に潰してたんだ。 「何人潰したかは覚えちゃいねぇ。どいつもこいつも俺に言わせりゃロクな奴じゃなかったからな。二人っきりになんて絶対させねぇ、常に俺が一緒だ。ケケケッ! ザマァ見ろだぜ!」 今の自分の立場としては、潰しまくってくれたバラカスには感謝しかないのだが、なにがそんなに気に入らなかったんだ? それと……それならどうして、自分はマジョリカと二人きりにさせてくれたんだろう?
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