第十五章 霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話

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「ま、与太話はこれで終わりだ。研究所(ココ)に連れてきたのは、お前が現世に戻っても、ある程度困らないようにいくつか渡したいモノがあってな」 古タイヤから立ち上がり、着いて来いと歩き出したバラカスの後を追う。 巨大パンダの足で十数歩、横開きの扉を開けたその先は、今いた体育館よりも更に広い空間があった。 まず目に入るのが、地球のワンボックスカーを縦にしたような立方体。 これが延々、ズラリと並び、その終点が見えてこない。 立方体の表面は、複数ある丸いランプが光ってて、個々にそれぞれ点灯と点滅をランダムに繰り返している。 雰囲気としては地球でよく見るパソコンだ。 だが、これだけの台数が並んでいると、どこか大きな会社のサーバー室に迷い込んだと言った方がしっくりくるかもしれない(それにしたってデカすぎるし数も多いが)。 後ろを向いた丸い背中に丸い尻。 その尻には、ホワホワの白い尻尾が付いている。 パンダの尻尾って黒じゃないんだな、などと思いながら「バラカス、これは?」と声を掛けると、 「サーバーだ。しかもここにあるのは全台黄泉の国の公式機。パワー気取りのハンパなエンジニアが造ったものとは訳が違う。サーバーは第1から第9999まで、イチから俺だけで造ったんだ。定期メンテもなにもかも俺が面倒見てるから、いつだって絶好調。特に1号機から99号機のスペックは神レベルだ」 やっぱりサーバーだったのか。 しかし9999台もバラカスだけで造り管理もするとは、とてつもないスキルと労力がいる。 「バラカスやるなぁ…… で、1号機から99号機のスペックが特別高いって言うのは、なにか理由があるのか? ああ、そうか。無敗のシステムを支える為だな?」 当然、肯定の答えが返って来ると思っていたのに、 「いや、途中で飽きたんだ。だから100号機からは神レベルから仙人レベルに抑えてある。どうせ他のヤツらにゃ分かりゃしねぇし。なんでそんな事したかって? だって考えてみろよ、普通イチパンダだけで9999台も造らせるか? 馬鹿じゃねぇかって思うだろ? ま、でもそれがよ、俺が黄泉の国の住人になる為に出された条件だったから、やるしかなかったんだけどよ」 「黄泉の国(ココ)の住人になる条件? そんなモンがあったのか? 自分は特に条件は無かったみたいだが、」 自分の入国審査については「ジャッキーさんの審査は余裕で通っています」と、白雪ちゃんが言っていた。 さすがに自分が特別善人だとは思わない。 ボランティアに参加した事は1度もないし、自分を守る為のウソだってついた事がある。 進んで人を傷つけようとはしなかっただけで、家族に迷惑をかけ、小林にも感情のまま辛くあたった。 それでも審査のみの無条件で通ったのだ。 「あぁ、俺はギリギリで審査に落ちたんだよ。本当なら地獄流しのはずだった。だがな芸は身を助けるじゃねぇが、スキルを買われてよ、9999台のサーバー構築と、黄泉の国に大きく貢献するナニカ(・・・)を造れば永住権をくれるって言われたんだ。それで瞬時翻訳システムを造ったんだわ。それまで黄泉の国(ココ)では、個人で持つ携帯型の翻訳機が主流だったからな、どいつもこいつも驚いてたよ。ケケケッ! まったくチョロイぜ!」
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