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「ジャッキ……バラカス……そっちにいるのか?」
隣の部屋から自分達を呼ぶ、マジョリカの声が聞こえてきた。
元気はなく、迷子の幼子のようなか細い声だ。
あんな声を聞いてしまうと居ても立っても居られなく、すぐに愛しい妻を迎えようとしたその時、バラカスが言った。
「俺は先に【光道開通部】に行くわ。さっきは白雪に散々キツイ事言っちまったからな。光る道の欠片をくすねたのも黙っててくれたのに、ちっとばかし言い過ぎた。機嫌を取っておかないと後がコワイ。ジャッキーは後からマジョリカと一緒に来い。じゃあな、______光道開通部へ」
返事も待たずに瞬間移動を発動させたバラカスは、研究所から姿を消した。
「ジャッキ……? バラカス……? どこ……?」
泣き出しそうなマジョリカの声に胸が締め付けられる。
早くここにいると伝えたくて、小走りになる。
「マジョリカ、ここだ、」
サーバー室から、開けたままになっている横開きのドアを抜けて隣の部屋に行くと、自分を見つけたマジョリカが「ジャッキ、いた」と嬉しそうに笑った。
「バラカスは?」
そう言いながらマジョリカはヒールの靴を脱いだ。
芝生の上では歩きにくいのだろう。
「先に【光道開通部】に行くって。白雪ちゃんに謝りたいって言ってた」
バラカスのいない研究所はやけに広く感じた。
マジョリカと自分はお互いの姿を焼き付けるように、ゆっくりと歩きながら近づいていく。
「そっか。バラカス、口は悪いけど本当は優しいんだ」
「うん、さっき分かった。アイツに『マジョリカと結婚するならオマエは俺の息子だ』って言われたよ」
自分がそう言うと、マジョリカは少し驚いた顔をして、そして嬉しそうに笑った。
「バラカス、結婚許してくれたんだね」
「ああ、俺達三人はファミリーだって言ってた」
「あはは、バラカスがそんなコト言うなんて信じられない。ウチに近づく男はみんな追い払ってたのに……ジャッキは特別なんだね。ウチの特別だからかな?」
えへへ、と笑うマジョリカの二色の瞳にみるみる涙が溜まり、慌てたように後ろを向いて立ち止まる。
「マジョリカ……」
震える後ろ姿が頼りなくて、愛しさと切なさが込み上げる。
強くしたら壊れてしまいそうで、後ろからそっと包むように背中を抱いた。
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