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「ジャッキ……あのね、白雪ちゃんがね、生者の為の光る道を造るには時間がかかるから、連絡するまでウチと待っててだって、」
「そっか。じゃあ、それまでココにいよう」
二人とも分かっていた。
それが白雪ちゃんのついた優しいウソだって事を。
開通部キャリア3桁超えの長が、手間取る作業じゃない。
「やっぱり白雪ちゃんは優しいな、」
小さく呟き二人で芝生の上に腰を下ろすと、マジョリカはゴソゴソと、自分の胡坐の中に対面で滑り込んできた。
向かい合った体勢は互いの体温で温かく、そしてマジョリカの長い脚は、自分の腰でクロスに絡む。
「マジョは甘えん坊だ」
「ん、」
短く答えて自分の胸に顔を埋め、愛しいマジョリカは小さな声で話始めた。
「……頭ではね、分かってるんだ。ジャッキと離れても、またいつか帰ってくるって。その後はずっと一緒にいれるんだって……でもね、やっぱりちょっと淋しくて……ああ、もう、さっきはウチ、ダイジョブだって言ったのに……カッコ悪いなぁ」
カンフーシャツの胸元を、小さな両手でギュッと握るマジョリカは、時折おでこを擦り付けてくる。
そんな子供のような仕草が愛おしくてたまらない。
「自分もね、さっきバラカスの前で泣いたよ」
「ウソ……!」
「本当。ははは、自分もカッコ悪いよ。なんだか似た者夫婦だな」
”似た者夫婦” 何の気なしに出した言葉だったが、”夫婦”という単語に二人で顔を見合わせて、同時に顔を赤くした。
「そっか、ウチとジャッキは夫婦なんだね」
「そうだ、夫婦だ。なんか照れてしまう。でもね、すごく嬉しいよ。すごく幸せだ」
二人して笑ってしまい、そしてキスをした。
「地球人の命は1つだけだ。しかも自分はもう40だし、そう長くは待たせないよ」
コツンとおでこをぶつけ合う。
マジョリカの鼻に自分の鼻をくっつける。
「まだ40だよ、きっと長生きする。淋しいけど……せっかく現世に戻るんだもん。ジャッキの家族を安心させてあげてほしい。ジャッキの好きな事いっぱいしてきてほしい。なにしてもいいよ、でも浮気はヤダ……」
息が触れ合う至近距離、ジト目で自分を見つめてる。
この娘はなにを言ってるの?
浮気なんてするはずないよ。
アナタ以上の女はいない。
なにを心配してるんだろう?
自分はもうオジサンで、これが最後の恋だというのに。
「浮気なんてしないよ。……ん? 心配?」
情けない顔で「うぅ」と唸る愛しい妻にキスをした。
広すぎる研究所にかすかな水音が響く。
心配する事は何もないのだと、どうすれば分かってもらえるのだろう?
……あ、
「あのね、バラカスがね、黄泉の国と現世を繋いで、自分とマジョリカで話が出来るようにしてくれたんだ。離れていも声は聴けるの。毎日毎晩話をしよう、その日あった事を報告し合おう。マジョリカが安心して眠れるまでいつまでも付き合うよ」
自分がこう言うと「ホントか!」と二色の瞳をキラキラさせてマジョリカは笑う。
表情がコロコロ変わり見てて飽きない。
ああ、大好きだ。
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