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ずっとキスをしていた。
重ねた唇は溶けきって、甘い吐息と息遣いが混ざり合う。
途中、愛を囁く言葉でさえ、互いの唇は掠るように離さずに、ゼロ距離の中で紡ぎ合っていた。
そんな蜜刻をジャマする輩が一人。
研究所の外から、なにやら甲高い声が聞こえてきた。
「チーフー! マジョリカチーフー! ここにいますかー? おじゃまして本っっっ当にゴメンナサーイ! じゅぶんですー! ヤマネですー! 白雪長に言われてお迎えに来ましたー!」
声の感じは小さな女の子のような幼さで、”じゅぶん”と言っていたけど、もしかして”自分”と言いたいのだろうか?
「あ……ヤマちゃんだ。ジャッキ、あのね、外に来てる子は【光道開通部】の同じオペレーターなんだ。ヤマちゃん、迎えに来たって言ってたよね……そっか、もう時間になっちゃったんだ」
二色の瞳に涙を溜めて、ギュッと自分にしがみつくマジョリカに「あと1分だけ」と呟いて、長く激しいキスをした。
外からは、相変わらずヤマちゃんの甲高い声が聞こえてくる。
身を切るような辛さを捩じ伏せ、なんとか唇を離した瞬間、マジョリカが再び唇を押し付けてきた。
「ジャッキ……ウチも愛してる……すごくすごく愛してる……」
ああ、マジョリカ。
アナタを現世に連れていけたらいいのに。
だけどそれは叶わない。
二人はしばらく見つめ合い、もう一度だけと唇を重ねた。
マジョリカを”チーフ”と呼ぶヤマネさん、通称”ヤマちゃん”は、バニー星のウサギ族で、研究所のドアを開けると、申し訳なさそうな顔をして立っていた。
ちんまり小柄なウサギ族は二足歩行で、身長はマジョリカの腰のあたりまでしかない。
カフェオレ色のフワフワ毛並みと長い耳が特徴的な、可愛らしいウサギちゃん……なのだが、せっかくのプリティさをぶち壊す変なアイテムを装備していた。
ヤマちゃんは頭にカチューシャを着けているのだが、そこには引く程リアルな造りの人間の耳が接着されていて……要は頭の真上に自前のウサ耳が、その少し下には完成度の高すぎるフェイク人耳が着いているのだ。
耳は全部で4つ、どうにも不気味なビジュアルだ。
ヤマちゃん曰く、
「ヒト族も、萌え~とか言って、”ウサ耳カチューシャ”着けるでしょ! ウサギ族もおんなじ! 萌えのココロで”ヒト耳カチューシャ”着けるんです! これはオシャレです!」
なんだそうだ。
タシタシ足を踏み鳴らしつつ力説してるのだが……なんだろう?
この緊張感の無さは。
ついでにこうも言っていた。
「さっき、センターでお二人を見ました! 本物の愛にものごっつ感動したです! もうボロボロに泣いちゃいました! お二人は、じゅぶんの憧れです! とぅるーらぶです! 全力で応援します!」
あぁ、思い出した。
そうそう確かにいたぞ。
顔は見なかったけど、フロアで誰か泣いていたわ。
あれヤマちゃんだったんかい。
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