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大歓声が落ち着きを見せ始めた頃、
キンッ……
と天空から微かな異音が聞こえてきた。
200階建ての超高層ビルの屋上に立つと、厚い雲は眼下に広がっている。
屋上を境界に天を仰げば、薄く透けるベールのような雲がまばらに宙に浮かんでいるのだが……
キン……キィィ……キィィィィィッ……
耳鳴りに似た異音がどんどん大きくなってくる。
異音はさらに音量を上げ、屋上には細かな振動が伝わって、同時に自分の身体も揺らされた。
何かが起きている。
漠然とした不安に、マジョリカの華奢な身体を隠すように抱きしめた。
個性豊かなオペレーター達もざわついている。
バラカスだけは、いつもの余裕を崩さずに、手にしたタバコを炎のドラゴンの背びれにあてて吹かし込んでいた。
空から何かが落ちてくる、
そんな気配なのだが____
キィィィィィィィイイイイイイイイイイイイッ………………!!
ドウンッ!!
重量級の落下と強い衝撃。
激しい爆音と共に粉塵が上がった。
広さのある屋上全体が白い靄に覆われ視界が奪われる。
自分は大事な妻を抱きしめて、この身に代えても守り抜くと目をギラつかせていた。
シュウシュウと空気の漏れるような静かな異音。
高く舞い上がった粉塵は、今では灰雪となり降り積もる。
徐々に晴れてくる霧雪の中、フェードインするのはヒト族を思わせる黒い影。
ただヒト族にしてはデカイ。
例えるなら業務用冷蔵庫のようなゴツゴツの立方体……ん? 冷蔵庫?
あ……もしかして。
「ごめんね、待たせちゃったよねぇ!」
ガラス細工の鈴の音のような澄んだ声。
そこに現れたのは、【光道開通部】キャリア3桁超えの長、白雪姫だった。
「白雪ちゃん!」
自分の胸にしっかりホールドされた愛しい妻が、ぴょこっと顔を出すと弾んだ声を上げた。
「マーちゃん、ごめんね! 呼んどいて居ないとかないわ! ちょっとね、大事なモノを取りに行ってたの! ジャッキーさんもごめんなさい!」
灰乾雪が地に積もる晴れた視界の真ん中で、焦げたような煤に塗れた白雪ちゃんが人懐っこい笑顔を向けていた。
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