第二章 霊媒師面接

2/7
前へ
/2550ページ
次へ
駅を背中に真っ直ぐ100m。 男の足で歩けば1分程度で到着できる好立地にその会社はあった。 レンガの外壁に蔦が絡まる三階建ての古いビルで、玄関口の横には『株式会社おくりび』の看板がある。 「ここみたいだな……」 僕はスマホに表示された地図と見比べ、目的地に間違いが無い事を確認した。 現時刻は9時50分。 約束の時間は10時だからちょうどいい頃合いだ。 僕は昨日、ハローワークで職員さんのふりをしていた『株式会社おくりび』の先代の幽霊に霊媒師としてスカウトされた。 彼曰く、僕には気付いていないだけで高い霊力があるらしい。 以前の僕なら突然そんな事を言われても、その胡散臭さに関わらないようにしただろう。 だけど無職になった30すぎの就活がどんなに厳しいものなのか、身を持って思い知らされた僕は藁にもすがりたい心境で救いの手に見えたのだ。 だってそうだろう? この半年で落ちた企業が2桁をこえる僕にとってはまさに神様仏様!(幽霊だから仏様に違いないし)状態で、気持ちが動かない訳ないじゃなか。 とはいえもちろん不安はある。 今まで幽霊なんて見た事もないし、金縛りさえかかった事のないこの僕に、霊媒師なんて勤まるのだろうか? 悪霊や地縛霊を相手にして危険はないのだろうか? などなど。 それでも今日僕がここに来たのは、霊媒師という仕事への不安より、一人暮らし30才無職独身の預金残高の方が数倍も恐ろしかったからだ……。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2372人が本棚に入れています
本棚に追加