2365人が本棚に入れています
本棚に追加
/2550ページ
ジャッキーさんの家で打ち上げをしてから二日。
僕は相変わらず会社に出社していた。
「次に入った依頼内容が、鬼すぎでなきゃエイミーだけで行ってみるか!」
すこぶる笑顔の社長にそう言われ、緊張しながら「はい!」と返事をしたのだが、そうタイミングよく僕に行けそうな依頼が来なかった。
昨日は一緒に出社だった水渦さんはというと、一件入った依頼現場に僕を置いて一人で行ってしまった。
せっかく来た依頼。
なんで僕が行かなかったかというと、内容が鬼レベルだったからだ。
C県の外れ。
そこの廃屋で昼夜問わず、ゴリッゴリの悪霊が出るという。
依頼主は廃屋及び山の所有者。
去年から廃屋に面した急カーブの峠道で事故が多発している。
車でもバイクでもドライバーのみなさんは、白い服を着た髪の長い女の幽霊が、急に背後からしがみ付いたかと思ったら、ペロリと顔を舐めてきた、それに驚いてハンドル操作を誤ったと、すべて意見が一致しているのだ。
事故に遭った人達の中には、大怪我を負った方もいる。
あまりにも容赦がない、憑りつく幽霊は、襲った生者が死んでも構わないというつもりなのだろう。
その内容であれば、新人一人で行かすには少々心配であるという事と、それでも行くとしたとして、ペーパードライバーの僕では電車でC県までは行けても、現場である峠の中腹までの移動が難しい。
タクシーを使っても良いのだが、もしも幽霊が別の場所に移動した場合、そのたびタクシーを呼んでとなると効率が悪すぎる。
下手すりゃ、呼んだタクシーのドライバーさんが襲われるかもしれない。
そうなると、車の運転に慣れている水渦さんが行くのが必然だ。
しかも対悪霊戦には持ってこいのスキルの持ち主なのだ。
「なんならミューズとツーマンセルで行くか?」
と社長が言ってくれたのだが、水渦さんが首を縦に振らなかった。
「神奈川の現場でも一緒でしたから、しばらく一緒に行きたくないです」
えぇ……?
なんで……?
神奈川の現場では、助けていただいたけど、なんとかやり切る事ができたし、ジャッキーさん家での打ち上げも楽しかったじゃないですか。
遊びと仕事は別だと言われたらそれまでだけど、水渦さんとは結構仲良くなれたつもりでいた僕は、”しばらく一緒に行きたくない”と言われてショックだった。
でも……C県の現場は鬼レベルなのだ。
好意的に考えれば、新人の僕が一緒じゃ足手まといになるのだろう。
そうハッキリ言わずに濁してくれたと思えば……うん、優しさなのかもしれない。
だけどもし、前回現場が一緒だったという条件は同じでも、今回のパートナーがハイスキルのジャッキーさんだったらツーマンセルを組んだのだろうなぁ。
最初のコメントを投稿しよう!