第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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そう言えば……昨日の水渦(みうず)さんは、朝から機嫌が今ひとつで、僕の入れたハーブティーも無言で飲んでいたっけ。 「水渦(みうず)さん、今日はリンゴっぽい香りがするお茶なんですが、リンゴは使ってないんですよ。不思議ですよねぇ。これはですね、冷え性にも効くから女性に人気のジャーマンカモミールなんですが、」 いつもなら無表情ながらもお茶の説明を聞いてくれるのに、心ここにあらずといった風だった。 社長の奢りでランチに行こうとした時も、「社長の顔を見てると食欲がなくなりますので」と一人、事務所に残ってたし(ま、これは本当にそうだったのかも)。 てか、ユリちゃんとギクシャクもしてたんだよな。 社長の奥さんになる人だから警戒してるのだろうか? や、でも前回事務所で二人が顔を合わせた時は、そんなコトなかったんだよね。 社長は嫌いでもユリちゃんには普通だったのに。 C県の依頼が入ったのは、昨日の午後2時過ぎだった。 時間も時間だったし、依頼主も来てくれるのは明日で良いと言ってくれたにも関わらず、水渦(みうず)さんは、 「今から行けば夕方過ぎには着くでしょう。夜の方が悪霊の動きも活発になります。社用車も空いていますし、これからすぐに出発します。それから社長、今回は悪霊の可能性が高いです。成仏の意思確認をして同意しないようなら滅する方向で構いませんね?」 と、早々に出発してしまったのだ。 …… ………… ………………うーん、なんか僕、避けられてないかなぁ? 先日の打ち上げ、ジャッキーさん()でホームパーティーは最高に楽しかった。 ウーノに連続負けした水渦(みうず)さんは癇癪を起こしたけど、ジャッキーさんの華麗な猛獣使いっぷりで立て直したし……となると帰り道か? 僕なんか気に障る事でもしたんだろうか? 月が綺麗ですねとか、大福がまだ帰ってこなくて淋しいとか、風が冷たくなくなりましたねとか、そんな話をしていただけなんだけど……でも、水渦(あのひと)の場合、地雷がどこに隠れてるか分からないからな。 はぁ……女心って難しい。 やっぱり僕には猫が一番合ってるよ。 大福、早く帰って来てー。 という訳で、今日は一人なのだけど、依頼がいつ入るかわからないのだ。 それまでボンヤリしてるのもなんだしと、動画に撮っておいた水渦(みうず)さんの印を再生しながら、ひたすら自主練をしていたのだ。
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