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時計を見れば11時。
出社してからずっと印の練習をしている。
僕の手指はまだ固いけど、これだけ繰り返し見ているおかげで工程だけは、大体覚える事ができた。
学生の頃から暗記物は得意だったのよね。
とは言え少々根詰めすぎた。
椅子に座ったまま、動かすトコと言えば手指のみ。
ちょっと休憩するかと立ち上がり、うーんと大きく伸びをした。
____ガチャ、バタン!
ん?
隣の部屋に誰か来たか?
って、研修室の真横は女子ロッカー室だ。
ユリちゃんかな、なんて思って10分くらい経った頃。
僕のいる研修室のドアが、ノックも無しに乱暴に開けられた。
「あーーーーーー!! エイミーちゃーん! 久しぶりー! 元気だったぁ? ちょっとよく顔見せてよ!」
そう大声で入ってきたのは、シンプルな黒いワンピースに細身の身体、整った目鼻立ちにフルメイク赤口紅の……弥生……さん? や、違うな、もしかして妹さん?
顔立ちは弥生さんだが、どう見ても若い。
二十代半ばくらいにしか見えないのだが、さっきの話っぷりは僕を知っているようだった。
え?
意味が分からないんですが。
「やだ、エイミーちゃん。アタシの事忘れちゃったとか言わないでよ? 弥生だよ! 埼玉の廃病院一緒に行ったじゃーん!」
埼玉の?
廃病院?
それって大澤先生のトコの現場を言ってます?
てか、今ストレートに「弥生だよ!」って言ってたよね?
じゃ……二十代半ばにしか見えない、この人は弥生さん本人なの?
や、だって、弥生さんって38才じゃなかったっけ?
なんでこんなに若返っちゃってるの?
えぇ?
「弥生さん……ですか? てか、顔、」
「顔? 美人か?」
「あ、はい」
「若いか?」
「めちゃくちゃ!」
「そうだろ、そうだろ」
ご満悦な弥生さんの顔は、どこをどう見ても、こう至近距離で見たって若い。
肌なんてツルツルのピカピカで三十代後半の肌ではない(や、もちろん、元々綺麗な肌でしたよ? 本当ですって)。
それだけじゃない、目や鼻や口、それぞれのパーツも心なしか位置が高い。
年齢を一回り逆行したような顔になっている。
もしかして……美容整形的な感じ?
「あのさ、廃病院の現場にいた特殊メイク班の二人覚えてる?」
いきなり言われて思い出すのに数十秒の時間が必要だった……が、思い出したー!
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