第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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時計を見れば11時。 出社してからずっと印の練習をしている。 僕の手指はまだ固いけど、これだけ繰り返し見ているおかげで工程だけは、大体覚える事ができた。 学生の頃から暗記物は得意だったのよね。 とは言え少々根詰めすぎた。 椅子に座ったまま、動かすトコと言えば手指のみ。 ちょっと休憩するかと立ち上がり、うーんと大きく伸びをした。 ____ガチャ、バタン! ん? 隣の部屋に誰か来たか? って、研修室の真横は女子ロッカー室だ。 ユリちゃんかな、なんて思って10分くらい経った頃。 僕のいる研修室のドアが、ノックも無しに乱暴に開けられた。 「あーーーーーー!! エイミーちゃーん! 久しぶりー! 元気だったぁ? ちょっとよく顔見せてよ!」 そう大声で入ってきたのは、シンプルな黒いワンピースに細身の身体、整った目鼻立ちにフルメイク赤口紅の……弥生……さん? や、違うな、もしかして妹さん?  顔立ちは弥生さんだが、どう見ても若い。 二十代半ばくらいにしか見えないのだが、さっきの話っぷりは僕を知っているようだった。 え? 意味が分からないんですが。 「やだ、エイミーちゃん。アタシの事忘れちゃったとか言わないでよ? 弥生だよ! 埼玉の廃病院一緒に行ったじゃーん!」 埼玉の? 廃病院? それって大澤先生のトコの現場を言ってます? てか、今ストレートに「弥生だよ!」って言ってたよね? じゃ……二十代半ばにしか見えない、この人は弥生さん本人なの? や、だって、弥生さんって38才じゃなかったっけ? なんでこんなに若返っちゃってるの? えぇ? 「弥生さん……ですか? てか、顔、」 「顔? 美人か?」 「あ、はい」 「若いか?」 「めちゃくちゃ!」 「そうだろ、そうだろ」 ご満悦な弥生さんの顔は、どこをどう見ても、こう至近距離で見たって若い。 肌なんてツルツルのピカピカで三十代後半の肌ではない(や、もちろん、元々綺麗な肌でしたよ? 本当ですって)。 それだけじゃない、目や鼻や口、それぞれのパーツも心なしか位置が高い。 年齢を一回り逆行したような顔になっている。 もしかして……美容整形的な感じ? 「あのさ、廃病院の現場にいた特殊メイク班の二人覚えてる?」 いきなり言われて思い出すのに数十秒の時間が必要だった……が、思い出したー!
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