2366人が本棚に入れています
本棚に追加
/2550ページ
黙り込む先輩霊媒師二人の間で、僕は非常に戸惑っていた。
「あの……ジャッキーさん? 弥生さん? どうしたんですか?」
なにやら妙な不穏さを感じる。
なにがって分からないけどさ、空気が重くて、この部屋から出ていきたいなーなんて思っちゃう。
てか、なんだろ?
本当に出て行った方がいいかな?
「あの……僕、席外しますね」
短く言って出ていこうとしたのをジャッキーさんが引き止めた。
「待ってエイミーさん、このままここにいてくれないかな。……ほら、いくら会社の同僚でも、女性と二人で部屋にいるのはいただけない。あらぬ誤解を生む事になる」
え、そうなの?
僕さっきまで、この部屋で弥生さんと二人きりでメイクと髪の話してましたが、それも誤解されちゃうの? って、ないか。
「誤解生むってナニ? 感じ悪いな! いいよ、アタシが出てくから!(ゴチッッ!!)痛ッ……」
オフィスデスクの下から、怒鳴りながら立ち上がろうとするものだから、弥生さんはしたたかに頭を打った。
「弥生さん!」
先に動いたのはジャッキーさんだった。
「ジャッキー……」
打った頭に手をやりつつ振り返る弥生さんの目は真っ赤だった。
かわいそうに、そんなに痛かったのか。
「僕、給湯室行ってタオル濡らしてきます! ジャッキーさんは弥生さんを見ててあげてください! ドアは開けっ放しにしときますから、それならいいでしょう?」
返事も聞かずに飛び出して、1階の給湯室目指して走り出した僕の背中には、弥生さんの泣き声のようなものが聞こえた気がした。
エレベーターは使わず階段を駆け下がり、給湯室のストックタオルを水で濡らして固く絞ると、そのままトンボ帰りに階段を駆け上がる。
ヤバ……ちょっと息が切れた。
本当なら廊下もダッシュしたいトコだけど無理。
ゴメン、ちょっとスピードダウン。
その廊下に漏れるように弥生さんの半べそな声が聞こえてきた。
え……?
あの弥生さんが泣いてるの?
マジか……よっぽど痛いんだな……待ってて、すぐに冷やしましょう!
タオルはココです!
「その気もないのに優しくするなよ!」
それは本気の怒鳴り声だった。
僕はドアの手前で固まってしまう。
「いいから。今は大人しく打った所を見せてくれ。弥生、お願いだよ」
弥生さん……どうしたんですか?
ジャッキーさんも変だ、弥生さんを呼び捨てにしてる……さっき僕の前では“弥生さん”だったのに。
「来るな! ちょっとぶつけただけだ、大したコトない!」
「大した事あるかないかは自分が確かめる。だからちゃんと見せてくれ」
「いやよ! 絶対見せないから!」
えっと……なにがどうなっちゃってるんでしょう?
最初のコメントを投稿しよう!