第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

12/222
前へ
/2550ページ
次へ
「少しコブになってるみたいだな。切れてはいない……弥生、気持ちが悪いとか眩暈がするとか、そんな症状は?」 「……別にそんなの……あ……言われてみたら眩暈が…するかも……」 「本当に?」 「……うん、」 「そうか、そういうのが一番怖いんだ。すぐに病院に行くぞ。自分が連れていくから安心して。頭を打ってすぐに眩暈がするのは危険だ、」 「びょ、病院!? ま、待って! 大丈夫! なんか良くなってきた、つーか治った!」 「そんなに早く? 弥生……もしかして目眩はウソなのか?」 「ごめん……眩暈なんてしてません……気持ち悪くもありません」 「そっか……それならいい、ウソで良かったよ。どうやら大丈夫そうだな。弥生、押さえつけて悪かった。怖かっただろう? もう離すから、」 「怖くないよ……あっ、待って! もう少しだけ、このままでいてよ」 「…………駄目だ。自分は既」 「既婚者だろ!? 散々聞いた! 知ってる! いちいち五月蠅いよ! ……せめてあと5分このままでいてよ……一応、頭打ったんだ……後から症状が出るかもしれないよ、」 「ん……そうか……それならアラームを掛ける。5分だけ、それでいい?」 「うん」 「分かった。……なぁ弥生、まだ気持ちの整理はつかないか? まだ自分の前では笑えない? 昔……自分はアナタの笑顔に何度も救われたんだ。二人でたわいない話をしてバカみたいに笑ってただろ? あの頃の弥生にはもう戻れないのか?」 「戻れるなら戻りたい……何度も諦めようと頑張ったけど、駄目なのはアンタのせいでもあるんだよ。それに本当はアタシだってやだ。ちっとも好きになってくれない男なんか早く嫌いになりたいよ」 「………………」 「黙んないでよ、なんか言ってよ」 「ん…………あのね弥生のその髪。ずっと前、妻の髪が宇宙色だって言ったから、そうしたの? そんなコトされても自分は嬉しくない。妻の髪は妻だけのものだ。誰かが真似したって、それは代わりにはならないよ」 「……! 別に……アンタの奥さんの真似したんじゃない。たまたまネットでラインストーン見つけてポチったでけで……それに、今日アンタが出社するのも知らなかったもの」 「本当に? ただの偶然? それなら自分が悪かった、ごめんな」 「……悪いと思うの? ホントに思うなら髪に触ってよ」 「……駄目だ、」 「じゃあ、頬は?」 「……駄目だ、」 「じゃあ、唇は?」 「……駄目だ、」 「ケチ、」 「なんとでも言え」 「押し倒してもいい?」 「駄目だ」 「ケチ、つーか弱虫ジャッキ、」 「…………」 「また黙った……ねぇ、そんなに嫌い?」 「嫌いなはずないよ、だってたくさん感謝してる。アナタがいなければ霊媒師にはなれなかったし、続ける事も出来なかった。ただね……嫌いとか好きとか、そういう問題じゃないんだ。自分は妻しか愛せない、妻しか抱けない。他の女じゃ駄目なんだ」 「妻しか抱けない……ふぅん、そう。それなら良い考えがあるよ。アンタはアタシを後ろから抱くんだ。それなら顔が見えない、それなら髪しか見えない…………そうだよ、アタシの髪のラインストーン、ホントは真似をしたんだ。これで一緒だろ? これならマジョリカの代わりに、」 「弥生ッ!……もうやめろ、それ以上言うな。そんなコト出来るはずがないだろう? アナタは誰かの代わりになんてなっちゃ駄目だ。弥生は自分にとって、だ」 ピピピ……ピピピ……ピピピ…… 「………………」 「………………5分だ。弥生、今日は大人しくしてろ。少しでもおかしいと思ったら病院行け。当然酒は飲むな。自分はこれで帰るけど、一人でどうしようもない時は電話しろ、いいな?」 「………………」 「ああ……それと、」 「……なに?」 「髪に星がなくても、化粧なんかしなくても、弥生はそのままで綺麗だよ。無理して誰かになろうとするな」 「……ッ! そういうコト言うな! そういうトコが……ジャッキーのバカ!!」
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加