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「少しコブになってるみたいだな。切れてはいない……弥生、気持ちが悪いとか眩暈がするとか、そんな症状は?」
「……別にそんなの……あ……言われてみたら眩暈が…するかも……」
「本当に?」
「……うん、」
「そうか、そういうのが一番怖いんだ。すぐに病院に行くぞ。自分が連れていくから安心して。頭を打ってすぐに眩暈がするのは危険だ、」
「びょ、病院!? ま、待って! 大丈夫! なんか良くなってきた、つーか治った!」
「そんなに早く? 弥生……もしかして目眩はウソなのか?」
「ごめん……眩暈なんてしてません……気持ち悪くもありません」
「そっか……それならいい、ウソで良かったよ。どうやら大丈夫そうだな。弥生、押さえつけて悪かった。怖かっただろう? もう離すから、」
「怖くないよ……あっ、待って! もう少しだけ、このままでいてよ」
「…………駄目だ。自分は既」
「既婚者だろ!? 散々聞いた! 知ってる! いちいち五月蠅いよ! ……せめてあと5分このままでいてよ……一応、頭打ったんだ……後から症状が出るかもしれないよ、」
「ん……そうか……それならアラームを掛ける。5分だけ、それでいい?」
「うん」
「分かった。……なぁ弥生、まだ気持ちの整理はつかないか? まだ自分の前では笑えない? 昔……自分はアナタの笑顔に何度も救われたんだ。二人でたわいない話をしてバカみたいに笑ってただろ? あの頃の弥生にはもう戻れないのか?」
「戻れるなら戻りたい……何度も諦めようと頑張ったけど、駄目なのはアンタのせいでもあるんだよ。それに本当はアタシだってやだ。ちっとも好きになってくれない男なんか早く嫌いになりたいよ」
「………………」
「黙んないでよ、なんか言ってよ」
「ん…………あのね弥生のその髪。ずっと前、妻の髪が宇宙色だって言ったから、そうしたの? そんなコトされても自分は嬉しくない。妻の髪は妻だけのものだ。誰かが真似したって、それは代わりにはならないよ」
「……! 別に……アンタの奥さんの真似したんじゃない。たまたまネットでラインストーン見つけてポチったでけで……それに、今日アンタが出社するのも知らなかったもの」
「本当に? ただの偶然? それなら自分が悪かった、ごめんな」
「……悪いと思うの? ホントに思うなら髪に触ってよ」
「……駄目だ、」
「じゃあ、頬は?」
「……駄目だ、」
「じゃあ、唇は?」
「……駄目だ、」
「ケチ、」
「なんとでも言え」
「押し倒してもいい?」
「駄目だ」
「ケチ、つーか弱虫ジャッキ、」
「…………」
「また黙った……ねぇ、そんなに嫌い?」
「嫌いなはずないよ、だってたくさん感謝してる。アナタがいなければ霊媒師にはなれなかったし、続ける事も出来なかった。ただね……嫌いとか好きとか、そういう問題じゃないんだ。自分は妻しか愛せない、妻しか抱けない。他の女じゃ駄目なんだ」
「妻しか抱けない……ふぅん、そう。それなら良い考えがあるよ。アンタはアタシを後ろから抱くんだ。それなら顔が見えない、それなら髪しか見えない…………そうだよ、アタシの髪のラインストーン、ホントは真似をしたんだ。これで一緒だろ? これならマジョリカの代わりに、」
「弥生ッ!……もうやめろ、それ以上言うな。そんなコト出来るはずがないだろう? アナタは誰かの代わりになんてなっちゃ駄目だ。弥生は自分にとって、だ」
ピピピ……ピピピ……ピピピ……
「………………」
「………………5分だ。弥生、今日は大人しくしてろ。少しでもおかしいと思ったら病院行け。当然酒は飲むな。自分はこれで帰るけど、一人でどうしようもない時は電話しろ、いいな?」
「………………」
「ああ……それと、」
「……なに?」
「髪に星がなくても、化粧なんかしなくても、弥生はそのままで綺麗だよ。無理して誰かになろうとするな」
「……ッ! そういうコト言うな! そういうトコが……ジャッキーのバカ!!」
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