第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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そんなにか……弥生さんとジャッキーさんが初めて会ったのは8年前だ。 知り合って1年経つ頃には好きになってしまったんだな。 さっき僕が「ジャッキーさんに惚れそうだ」と冗談を言った時、弥生さんはこう答えてたっけ。 ____まぁ気持ちは分かるよ ____ジャッキーといればいるほど、うっかりな、惚れちゃうんだよ あれは本心だったんだ。 「ジャッキーから聞いた? 霊媒師にスカウトしたのはアタシなんだ」 ぽつりぽつりと話し出す弥生さんの表情は穏やかだった。 当時を思い出しているのか、少し笑っている。 「8年前、今のエイミーちゃんと同じ30の時かな。昔も変わらず飲んだくれててさ、飲み屋の帰り道、廃ビルの前を通りかかったら、ゴリゴリの悪霊が4体もいて、アタシ思わず笑っちゃったんだ」 「あー聞きました。悪霊達に『股間が大和撫子』って言っちゃったヤツ」 「そーそー。悪霊達ガチギレしてさ、アタシを殺そうと飛び掛かってきたの。でもそんなのいつものコトだし、悪霊なら滅しても怒られないし、適当にカタつけて帰ろうと思ってたんだ」 ワンピースのポケットに手を入れて、ゴソゴソ何かを探してた弥生さんが飴玉を二つ取り出して、一つを僕にくれた。 残りの一つを口に放り込みながら話を続ける。 「その時初めてジャッキーに会ったんだ。いきなりアタシの前に出たかと思ったら、見た事のない防御陣展開させて、アタシに『逃げろ』って言ったの。別にあの程度の悪霊、瞬殺できるくらいの霊力(ちから)は持ってるし、誰かに助けてもらう必要はないんだけど、必死にアタシを庇ってるヤツを見てたらね、あー、惚れそうって思っちゃったんだ」 そうか……だからその日のうちに先代に会わせたのか。 霊媒師としての資質があったのはもちろんだろうけど、スカウトするなら名刺を渡して後から連絡をくれと言ったって良かったのに、むしろその方が自然なのに。 でもそうはしなかった。 夜中から翌昼まで一緒に飲んで、『眠い、気持ち悪い、帰りたい』とぼやくジャッキーさんを会社に連れて行ったんだ。 「ヤツが無事入社した後の教育係はアタシだった。つーか名乗り出たの。アタシがスカウトしたんだからって。霊力(ちから)の使い方、悪霊との戦い方、依頼者応対、OJT、研修終了後も現場に行く時は大体一緒のツーマンセルだった。つーか、そう仕向けた」 一緒にいる時間がどんどん増えていったんだな。 そうやって過ごしているうちに本気で好きになったのか。 「ジャッキーは優しいよ。現場でジャッキーに見惚れてヘマした時も、身体を張って庇ってくれた。ヤツは元スタントマンだろ? いくら義足とは言え身体能力は並みじゃない。それにあの霊力(ちから)だ。アタシなんてすぐに追い抜かれたよ。でもね、悔しいと思わなかった。嬉しかった。どんどん強くなってく姿が眩しかった」
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