第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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そう言った弥生さんの表情は本当に嬉しそうで、ほんのりと頬が赤い。 その顔を見れば、恋愛ポンコツと言われる僕でさえ、弥生さんは恋をしてるのだなとわかる。 「一緒の現場は楽しかったよ。だってデートみたいじゃん。車移動は二人っきりのドライブだ。たくさんの現場に行ったけど、特に対悪霊の現場は幸せだった。ジャッキーの戦う姿は見れるし、足場が悪い所では手を取ってくれた。階段で悪霊に突き落とされそうになった時は抱きかかえて助けてくれた。アタシ、強いからさ。誰かに守らるなんてコトなかったんだ。一緒にいると楽しくて幸せで、時間なんてあっという間にすぎたよ」 うわぁ……そんなの好きになるだろ。 男の僕だって好きになるよ。 「ジャッキーが霊媒師になって1年が過ぎた秋にね、アタシ1度目の告白をしたの」 「ん? 1度目?」 話の途中だってのに気になって口にすると、 「うん、この7年で30回してるから」 と苦笑いの弥生さん。 僕もつられて苦笑いしつつ「……根性ありますね」と返すと「まぁね、」と返され、二人で目を合わせて笑ってしまった。 「この仕事ってさ、拘束時間も現場次第だろ。当然泊まりになる事だってある。大体は霊障現場にぶっ通しで滞在する事がほとんどだけど、車の中で仮眠なんてのも結構あるんだ。さっきは『女性と研修室(へや)で二人ではあらぬ誤解を……』なんて固い事言ってたヤツも、昔はそんな事言わなかった。とある現場のツーマンセルでその日の夜、仮眠の車の中で好きだっていったの。付き合ってほしい、カノジョになりたいって」 勇気を出したんだな。 弥生さん、頑張ったんだな。 「緊張したよ。でもね、心の底では上手くいくんじゃないかって期待してたんだ。 だって仕事とはいえ毎日一緒にいたし、たわいない話をずっとしていられるくらい気が合った。好きな食べ物も好きなお酒も驚くくらい一緒だし、飲みすぎを心配されて、かわりにゴハンに誘ってくれた。どんどん好きになっていった。これだけ一緒にいるのに手も握らないキスもしないのは真面目な男なんだと思ってた。そういうトコにもすごく惹かれた、告白されるのをずっと待ってた。でも待ちきれなくてアタシから言ったんだ。そしたら、」 鼻をスンスンし始めた弥生さんは、顔を横に背けてしまった。 きっと……泣きそうなのだろう。 僕は待った。 しばらくして、指で目を擦りこちらに向き直る。
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