第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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「組むのNG食らって半年したくらいの頃かな。ジャッキーが霊媒師を辞めるかもって話が出たんだ。どうもヤツはその辺の地縛霊とか浮遊霊を引き付けちゃうみたいで、現場でも地元の霊達がいっぱいきちゃうの。それが仕事に悪影響を出し始めたんだ」 ああ、アレだ。 ジャッキーさんの魂に癒着してる光る道の欠片効果だ。 欠片が霊を呼んじゃうんだって、集まりすぎで仕事にならないって言っていた。 「当時のジャッキーは相当参ってて、やっと霊媒師に慣れてきたのにって悔しがってた。その頃、たまに社内で会ってもお互い避けていたんだけど、意地張ってる場合じゃないと思ってさ、」 弥生さんは先代と社長とジャッキーさんに召集をかけた。 これだけ霊力(ちから)のある霊媒師は他にはいない。 ジャッキーを辞めさせたら、島根の霊媒一族がすぐにでも拾うだろう。 そうなれば会社の大きな損失になると、弥生さんは声を大に力説したそうだ。 「とは言っても……辞める言ってるのはジャッキーだけで、先代も誠も辞めないで済む方法を色々考えてくれてたんだ。アタシだけだったよ、集めるだけでノープランだったのは」 そうだった、打ち上げの時にジャッキーさんも話してくれたっけ。 みんなで考えたって。 話し合いは難航したそうだ。 ジャッキーさんに集まる霊をなんとかする為に、常にツーマンセルかスリーマンセルにする案が出るも、夏の繁忙期になったら人が足りなくなる。 その足りない人材を補う為に、社長がが得意とする思業式神を習得させる案も出たが、術者の霊力(ちから)を完コピする式だと集まる霊を増やすだけ、じゃあどうするか。 良い案がでなくて沈黙が続く中、 「急に思い出したの。前の年のクリスマスにジャッキーがくれたウサギの縫いぐるみの事を。そんなに大きなウサギじゃないし、嬉しくて毎日持ち歩いてたんだ」 その縫いぐるみ、きっと今日も持っているんだろうな。 なんだか切なくなってしまう。 「まだ告白する前。ツーマンセルの現場で車中仮眠を取ってた時にね、シートを倒しても中々眠れないから一人でウサギと遊んでたの。しばらくしてそれも飽きて、でも眠れないなぁって思ってたら、一瞬ウサギが光ってさ、それからゆっくり動きだしたんだ。ぴょんぴょん跳ねて手を振って、お尻と尻尾をフリフリさせて……すごくびっくりしたよ。なんで動くのか不思議で、でも可愛くて、寝てるジャッキーを起こさないように小さな声でわーわー言ってたの。そしたらね、ウサギがアタシの顔を覗き込んできて……」 ____弥生、弥生、早く寝ないとドジ踏むぞ ____だけどダイジョブ、弥生は自分が守るから 「ジャッキーの声が頭の中に聞こえてさ、身体の中から心臓を掴まれたみたいにドキドキした。あの時、”守る”って初めてコトバで言ってくれたんだ。ジャッキーにしたら深い意味じゃなかったんだろうけど、それでもアタシは嬉しくて、この人が好きだって強く…お、想って……それで……あぁ……ごめん、こんな……おかしいなぁ……もうやだカッコ悪……エイミーちゃんの前なのに…あぁ……ごめ、ちょっとだけ見ないでいて、」 弥生さんの目から涙が溢れて溢れて、嗚咽で言葉がうまく出せなくなっていた。 ウサギを動かしたのはジャッキーさんだ。 眠った振りして、弥生さんを驚かせる為に、遠隔でウサギを操ったんだ。 ジャッキーさんにとって、弥生さんは可愛い妹なのだろう。 眠れない妹をあやすくらいの気持ちだったのだろう。 だけど弥生さんはジャッキーさんを兄だとは一度だって思った事はないんだ。 こんなの、あまりに残酷だ。
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