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わんわん泣いた弥生さんは、少しスッキリしたのか「ごめんね」と言って口角を上げた。
笑ったつもりなのだろう。
こんな時、僕はどうしてあげたらいいのかな。
恋人でもないのに抱きしめるのは失礼だし、頭を撫でるのも年下の新人が生意気だし、面白いコトの一つでも言えればいいけど、トークは弥生さんの方が僕の300倍は立つ。
泣いてる女性に何も出来ない……情けないなぁ……せめて……うん、
湾曲させたた両手の中に少量の電気を溜める。
それを手早くウサギの形に整えて、弥生さんに差し出した。
こんな物もあげても困らせるだけかもしれない。
でも何かしてあげたかったんだ。
弥生さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにふにゃりと笑ってくれて、「エイミーちゃん、ありがとう。優しい子だね」と言って受け取ってくれた。
ああ、弥生さんは今、僕に向かって「優しい子だね」って言ったんだ。
この言葉はジャッキーさんがよく言うコトバだ。
____ありがとう、優しい子だね。
僕も水渦さんも、ジャッキーさんから何度も言われた嬉しい言葉。
きっと弥生さんも昔、ジャッキーさんにこう言われて幸せな気持ちになったのだろう。
「ごめんね、ちょっと想い出しちゃってさ。あの頃、幸せだったなぁって。付き合えなくてもカノジョになれなくてもいいから、ジャッキーに奥さんがいるって知らなかった頃に、NG食らわなかった頃に戻って、ずっとあの毎日を繰り返し過ごせたらいいのになって。……無理なんだけどさ」
僕のあげた電気のウサギを、弥生さんは自身の耳朶に押し当てた。
小さな声で何かを呟くと、小さなウサギはピアスのように耳に固定され「似合うか?」と僕を見る。
「似合います、可愛いです」と答えると嬉しそうに笑ってくれた。
「ウサギを遠隔で動かせるジャッキーなら、もっと丈夫な依代を用意して、それに憑依して現場に行けばいいと言ったんだ、」
それを聞いた先代も社長も、揃って渋い顔をしたそうだ。
そんな事は不可能だ、一つの現場を終わらせるのに数時間から数日かかる。
その間、集中力を切らさずに、継続して術を使うのは、体力、霊力、精神力、全てにおいて不可能で持つはずがない。
机上の空論にもならないと。
「だけどアタシには分かってた。他の霊媒師には出来なくてもジャッキーなら出来る、ジャッキーにしか出来ないって。ずっと毎日ツーマンセルで現場に行ってたんだもの。ヤツの戦い方、クセ、苦手な事、得意な事、スタミナ、メンタル、身体能力、そして霊力、総合的に見て不可能じゃない」
弥生さんの読み通りだったんだな。
それは今のジャッキーさんを見れば分かる。
「いつまでもグダグダほざいてる先代と誠を黙らせて、ジャッキー本人に聞いたんだ。アンタなら出来るよなって。そしたら声を出さずに笑ったの。アタシの目を見て……数か月振りに目が合って『もちろん出来る。ただし訓練は必要だ。期間は三ヵ月、そしてそれを手伝ってくれる人間を一人つけてくれ』そう言ったんだ。それからの三ヵ月間。アタシは毎日ジャッキーと一緒だった」
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