第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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わんわん泣いた弥生さんは、少しスッキリしたのか「ごめんね」と言って口角を上げた。 笑ったつもりなのだろう。 こんな時、僕はどうしてあげたらいいのかな。 恋人でもないのに抱きしめるのは失礼だし、頭を撫でるのも年下の新人が生意気だし、面白いコトの一つでも言えればいいけど、トークは弥生さんの方が僕の300倍は立つ。 泣いてる女性に何も出来ない……情けないなぁ……せめて……うん、 湾曲させたた両手の中に少量の電気を溜める。 それを手早くウサギの形に整えて、弥生さんに差し出した。 こんな物もあげても困らせるだけかもしれない。 でも何かしてあげたかったんだ。 弥生さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにふにゃりと笑ってくれて、「エイミーちゃん、ありがとう。優しい子だね」と言って受け取ってくれた。 ああ、弥生さんは今、僕に向かって「優しい子だね」って言ったんだ。 この言葉はジャッキーさんがよく言うコトバだ。 ____ありがとう、優しい子だね。 僕も水渦(みうず)さんも、ジャッキーさんから何度も言われた嬉しい言葉。 きっと弥生さんも昔、ジャッキーさんにこう言われて幸せな気持ちになったのだろう。 「ごめんね、ちょっと想い出しちゃってさ。あの頃、幸せだったなぁって。付き合えなくてもカノジョになれなくてもいいから、ジャッキーに奥さんがいるって知らなかった頃に、NG食らわなかった頃に戻って、ずっとあの毎日を繰り返し過ごせたらいいのになって。……無理なんだけどさ」 僕のあげた電気のウサギを、弥生さんは自身の耳朶に押し当てた。 小さな声で何かを呟くと、小さなウサギはピアスのように耳に固定され「似合うか?」と僕を見る。 「似合います、可愛いです」と答えると嬉しそうに笑ってくれた。 「ウサギを遠隔で動かせるジャッキーなら、もっと丈夫な依代を用意して、それに憑依して現場に行けばいいと言ったんだ、」 それを聞いた先代も社長も、揃って渋い顔をしたそうだ。 そんな事は不可能だ、一つの現場を終わらせるのに数時間から数日かかる。 その間、集中力を切らさずに、継続して術を使うのは、体力、霊力、精神力、全てにおいて不可能で持つはずがない。 机上の空論にもならないと。 「だけどアタシには分かってた。他の霊媒師には出来なくてもジャッキーなら出来る、ジャッキーにしか出来ないって。ずっと毎日ツーマンセルで現場に行ってたんだもの。ヤツの戦い方、クセ、苦手な事、得意な事、スタミナ、メンタル、身体能力、そして霊力、総合的に見て不可能じゃない」 弥生さんの読み通りだったんだな。 それは今のジャッキーさんを見れば分かる。 「いつまでもグダグダほざいてる先代と誠を黙らせて、ジャッキー本人に聞いたんだ。アンタなら出来るよなって。そしたら声を出さずに笑ったの。アタシの目を見て……数か月振りに目が合って『もちろん出来る。ただし訓練は必要だ。期間は三ヵ月、そしてそれを手伝ってくれる人間を一人つけてくれ』そう言ったんだ。それからの三ヵ月間。アタシは毎日ジャッキーと一緒だった」
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