第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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はじまりは小さなウサギの縫いぐるみだった。 車の中の運転席と助手席という至近距離。 眠れない弥生さんの為に発動させた霊力(ちから)。 それが今では東京都K市を起点に、遠隔操作は日本全国をカバーする。 それもコーヒーを飲みながらだ。 三カ月という訓練期間を貰ったジャッキーさんと弥生さんは、訓練に集中すれば現場にも出られないし、会社にも出社が出来なくなる。 当然その間の給料は出ないものだと思っていた。 だが、太っ腹な先代は、 「え? 出すに決まってるじゃない。だってそんなの習得してくれたら、この先、会社が助かるもん!」 と、減額もせず丸々支払ってくれたというのだ。 その先代の気持ちに応えるべく、弥生さんとジャッキーさんは気合を入れた。 それまでの数か月、お互い避け合っていたのが嘘のように、息の合ったツーマンセルに戻った。 肝心要の依代は、ジャッキーさんのコレクションから一番お高いジャッキー・〇ェンフィギュアが選ばれた。 アクションフィギュアと呼ばれるもので、他に比べて圧倒的に可動域が広く、ポージングも自由度(こう)の一品だ。 ちなみに今の依代フィギュアは6代目、代が変わるごとにカスタムされて、各部関節可動域は市販のものと比べ物にならないくらい柔軟だ。 現場が終わるたびにメンテナンスをするのだが、それでも1年前後が寿命となる。 初日は入門編。 東京都K市のジャッキーさんの自宅、その2階の部屋に座るジャッキーさんと、依代ジャッキーフィギュアと一緒に移動する弥生さん。 最初は近距離から、1m,2m、3m……10m,20m、30m……ここまで余裕。 依代のジャッキーフィギュアは優雅な演武を披露して、視覚聴覚のリンク確立、弥生さんとの会話も問題無し。 考えてみればこの余裕は当然の事なのかもしれない。 なんたって光る道の欠片の力を使っているのだ。 光る道と言えば、地球から黄泉の国まで繋げてしまう代物で、その欠片を魂に癒着させるジャッキーさんの力は計り知れない。 これならと、小刻みではなく一気に距離を伸ばす事にした。 起点は東京都K市のジャッキーさん宅→終点は東京都T市の株式会社おくりび事務所。 駅まで徒歩20分、電車で乗り換え2回の38分、計58分の距離。 通勤と考えればそう遠くはない、だが自宅の部屋から遠隔で依代ジャッキーフィギュアを操作するには遠いと言える。 だが、これも余裕。 弥生さんのリュックの内側から、依代ジャッキーフィギュアが自らチャックを開けて登場した時には、おくりび事務所内は大いに沸いた。 そこにいたのは先代(当時は社長)、社長(当時は一般兵)、弥生さん。 この3人に対し、ジャッキーさんは自分の声をタイムラグ無しで一斉送信しているし、各個人の声も聞き取って会話を成立させていた。 これもまた大いに沸いた。 初日にいきなり大技を成功させたジャッキーさんだったが、「いつもは1対1ですが、複数を相手にした音声のやり取りもしますので」と言っていた。 その時、弥生さんは、そんなやり取りを誰としているんだろう? と疑問に思ったのだが、その場では聞かなかった。 ただ、その謎が後に解けた時、めちゃくちゃ泣く事になったという。
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